2014-01-01から1年間の記事一覧

「容疑者」 ロバート・クレイス 著

不幸な事件で誰よりも大切な存在を喪ってしまった一匹と1人が、少しずつ信頼関係を築き上げながらかけがいのない「仲間」と変わっていく。 あかん、これは反則もの。 「傷ついた男と犬の再生の物語」って…あー…もうすべての展開と結末が思い浮かぶ気がする。…

「失職女子。 〜私がリストラされてから、生活保護を受給するまで」 大和 彩 著

人生という実に不公平な設定のRPGで、何度もよみがえり、立ち上がるんだ。本書は、37歳の著者が、大学を卒業してから就職、リストラ、心身の衰弱などによる通院…これらを経て生活保護を受給するに至るまでの記録である。 このように書くと彼女がなにやら問題…

「カルニヴィア 2 誘拐」 ジョナサン・ホルト 著

ダニエーレが作り上げた仮想世界とは異なり、混沌とした現実世界の複雑な模様はまた、小説世界にも暗い影を落とす。カルニヴィア三部作の2作目。 1作目を読んだ時は主要キャラクターたちの設定が面白いなあ、イタリア、特にヴェネツィアの暗部の描写に魅かれ…

「スタープレイヤー」 恒川 光太郎 著

ある日突然、身長2mぐらいの、肌も、服も、靴も、ありとあらゆるものが白い妙な男に「運命の籤引きでございます。地球人に、宇宙最大のチャンスが与えられるのでございます。」と言われて丸い穴の空いた箱を差し出されたら、どうします? 麻婆茄子の材料を買…

「名もなき花の 紅雲町珈琲屋こよみ」 吉永 奈央 著

まるで自分もそこに住んでいるかのような町、紅雲町。そして通いたくなる珈琲屋、「小蔵屋」。店長お草さんの入れるコーヒーは温かくて、ちょっぴり苦い。 小学生の頃、夏休みになると弟と2人、母の兄であるおじの家に1ヶ月ほど送り出された。 新幹線で数時…

「火星の人」 アンディ・ウィアー 著

「宇宙兄弟」の日々人は月に、「ゼログラビティ」のライアン・ストーン博士は無重力の宇宙空間に一人きり取り残された。そして、マーク・ワトニーは独りきり、「火星の人」となった。 有人火星探査<アレス3>のミッションは突然の砂嵐によって撤退を余儀な…

「千の輝く太陽」 カーレド・ホッセイニ 著

どんなに劣悪な環境でも、最悪の境遇でも、人は愛し愛されることで互い温め、照らす「千の輝く太陽」となることができる。 昔、小学生の頃、差別の問題について授業を受けた。 昔から思ったことをすぐ口に出すたちなので、その時も先生に「なぜそれを授業で…

「運転見合わせ中」 畑野 智美 著

電車にひと乗りする間に人生のあれこれが解決するお話もいいけれど、現実はそんなに単純なものじゃなくて、多くの人が「人生の運転見合わせ中」のただ中でもがいてる。これは事故で「運転見合わせ中」となった私鉄のとある駅での出来事。 そこに居合わせた6…

映画「ジャージー・ボーイズ」

「まだ駆け出しの頃、街灯の下で4人して俺たちだけのハーモニーを作った。あの時、他のことは消え失せて音楽だけがあった。最高の瞬間だ」 今の仕事は、それぞれの部署で3〜4人のチームになって、半年から1年ごとにメンバーを入れ替えしながら回っている。 …

「その女アレックス」 ピエール・ルメートル 著

アレックス…アレックス。本を閉じてしばらくは彼女のことしか頭に浮かばない。あー…アレックス。 本書を読了した今、頭の中では、堰止めた川の水のように、溢れ出しそうなほどの言葉の渦があるのだけれど、残念ながらここで語るわけにはいかない。この作品を…

「アガサ・クリスティー完全攻略」 霜月 蒼 著

「アガサ・クリスティーの全99作品評論集」クリスティーのファンならぜひ手に取って欲しい本、そして読み終わったら、きっとファン同士で語り合いたくなる本。高校生の頃、友だちと約束をした。 私はポアロシリーズを、友だちはミス・マープルシリーズを買…

「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」 増田 俊也 著

私たちはもっと「負け」ることの意味を、負けたあとの長い人生の生き方を何処かで学ぶ必要があるのではないかと思う。息子が中高生の頃、毎週のように試合や遠方の学校で行われる練習試合などに連れて行った。 朝は5時頃から起きて道具を詰め込み遠路を往復…

「駄作」 ジェシー・ケラーマン 著

手練れ読者の皆さん。言っておきますが、本書では、絶対に皆さんの予想は外れます。外れる上に、ひっくり返されて、逆さ吊りにされて、打ちのめされて、泣かされます。スレた読者にこそ読んで欲しいすごい本。 いや、すごい作品。 他になんと言って良いのか…

「火曜日の手紙」 エレーヌ・グレミヨン 著

毎週火曜日に届き始めた手紙が、秘められた過去の情熱を明らかにし、主人公カミーユの運命を変えていく。 1975年、母を亡くしたばかりの女性カミーユの元にルイという男性から毎週火曜日に手紙が届き始める。 その手紙は、なんのメッセージもないままルイの…

「ヴァイオリン職人の探求と推理」 ポール・アダム 著

本書はとびきりの謎解きであり、魅惑的な楽器ヴァイオリンのガイドブックであり、主人公の職人としての矜恃に魅せられる多様な魅力を持つ小説である。 ヴァイオリンと聞いて心ときめくのは竹宮惠子さんの「変奏曲」の影響だろうか。 (というわけで「変奏曲…

「バッキンガムの光芒」 ファージングⅢ ジョー・ウォルトン 著

ファージング三部作の最終巻。著者が書きたかったのは人間の愚かさではなく、個々の人間の思考と判断力と勇気への信頼だとわたしは思う。 「英雄たちの朝」、「暗殺のハムレット」、そして本書でファージング三部作をまとめてこちらで書いています。もしこれ…

「ゲームウォーズ 上・下」 アーネスト・クライン 著

暗号を解いて、広大なバーチャル世界に隠されたイースターエッグを探せ!莫大な遺産を狙う巨大企業と、ギークたちが抜きつ抜かれつ繰り広げるサブカルチャー戦争。 ネットサーフィンしていたら、こんな言葉を見つけた「我々は、リアルとバーチャルの対比で越…

「図書室の魔法」 ジョー・ウォルトン 著

無理に自分を変えなくても、自分が大好きなものをパスポートにして、どこかにいる仲間を探し出せる。そしてそれは、宇宙や異世界を旅するより心躍る冒険になるかもしれない。 1979年、本書の主人公モルウェナ、通称モリは15歳。 双子の妹モルガナ(通称モル…

「特捜部Q 知りすぎたマルコ」 ユッシ・エーズラ・オールスン 著

お待ちかねのシリーズ第5弾!今回は、アフリカの開発援助に絡む殺人事件と都会の片隅で逃げ惑う少年マルコを救うために特捜部Qのメンバーたちが活躍する。 お待ちかねのシリーズ第5弾。 毎回毎回トラブルに見舞われるカールだが、今回も、一目置いていた…

「ペナンブラ氏の24時間書店」 ロビン・スローン 著

暗号、謎解き、秘密結社…こんな言葉に魅かれてしまう人は、ぜひぜひ<ミスター・ペナンブラの24時間書店>にご来店を! ウェス・アンダーソン好きの人はハマる!との書評をどこかで見て思わず手に取った。 ちょうど先日、監督の新作を観たばかりだったので。…

映画「ダラス・バイヤーズクラブ」

否応なしに座らされた暴れ牡牛の背に乗って、限られた時間を振り落とされないようにしがつく。まるで運命に逆らうかのように。主人公ロンを象徴するもの、ロデオ、女、酒、コカイン、カーボーイハット。 映画の冒頭で、ロンが賭けロデオに興じるシーンがある…

「翻訳教育」 野崎 歓 著

作者の意図を100%正確に再現できない翻訳本は「本物ではない」のか。では、そもそも、「翻訳」とは、いったい何なのか。 学生の頃、気になった本の一節をノートに書き貯めていた。「精神の風が粘土の上を吹いてこそ、はじめて人間は創られる。」「完全に調子…

「ワイフ・プロジェクト」 グラム・シムシオン 著

身長も知的能力も高く、社会的地位にも恵まれ収入も平均以上。なのに、コミュニケーション能力は最低。そんな理系男子の予測不能でロマンチックな婚活プロジェクト! 「彼ってキュートでしょ」と、友人がよく俳優やタレントを指して言う。 キュートという言…

「アラバマ物語」 ハーパー・リー 著

今、私たちの社会は、モッキングバードたちを守ることができているのだろうか。私はモッキングバードを見殺しにしてはいないだろうか。このところ面倒くさい件にかかりきりで、毎日やきもきしている。 「人って皆いびつだね。そんないびつなものを正方形の小…

「弱いロボット」 岡田 美智男 著

この本を読むと、否定的な言葉として捉えられることの多い「弱さ」、これがいつしか宝物のようにも思われてくる。だって「弱さ」を持たない人なんていない。そしてそれが私たちが理解し合うための手掛かりになるのだ。 小学生の頃、転校した。 以前通ってい…

映画「チョコレートドーナツ」

人が生きて行く上で大切なことは、実はとてもシンプルなものなんだと思う。好きあった人と一緒に暮らすこと、毎日を笑顔の中で安心して過ごせること。マルコの望みは、大好きなチョコレートドーナツを朝食に、我が家でポールとルディと一緒に暮らすことだっ…

「ハロルド・フライの思いもよらない巡礼の旅」 レイチェル・ジョイス 著

記憶を共有する人を喪うということ、もう新しい関係を築くチャンスを喪うということの哀しみと取り返しのつかなさを思い知る。 先日、父の施設への引越しが済み、ようやく肩の荷が軽くなった。 様子を見に行くと、まだ落ち着かないようで心細さを訴える。 大…

「辞書になった男 ケンボー先生と山田先生」 佐々木 健一 著

人が人に何かを伝える手段、それは「ことば」。「ことば」に魅入られた2人の先生の辞書ものがたり。まさに「字引は小説より奇なり」。 先日から「虚力」という言葉が私の中で流行している。 流行というのは変な表現だが、なにかと頭に浮かんでくるこの状態は…

「しんがり 山一證券 最後の12人」 清武 英利 著

後軍、しんがりーーーそれは敗軍の最後尾で、退く味方たちを逃し、最後まで踏みとどまって戦う兵士たち。倒産した巨大証券会社で、世間そして味方と思っていた同僚たちからも疎まれ、非難されながらも、彼らが最後まで戦場に踏みとどまった理由はなんだった…

「道を視る少年」上下 オースン・スコット・カード 著

「エンダーのゲーム」の作者が描く、人や動物が通った軌跡が視えるという特殊能力を持った少年が知力を尽くして世界の謎に挑む冒険SF。「エンダーのゲーム」を初めて読んだのは十数年前、出張に向かう飛行機の中だった。 1週間の出張だというのに本の用意が…