2018-01-01から1年間の記事一覧

「《誕生》が誕生するまで」 池田 学 著

私たちは細部であり、全部である。 私たちは微小であり、巨大である。 私たちは孤独であり、全体である。 あらゆる場所が成長し、壊れ、綻び、また生まれ続ける「人の暮らし」という巨木。 どこかで花が咲き、どこかでモノが壊れ、どこかで土や空気が汚染さ…

「最初の悪い男」 ミランダ・ジュライ 著

人は自分のキャパシティを超えるような出会いと経験をすることによって、自分の世界を鍛え直し、その枠を拡張して行くのだ。 狂おしいまでに誰かを求めて、その気持ちがこじれて、ねじれて、間違った方向に暴走してしまった43歳の独身女性シェリルと、20歳の…

「出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと」 花田 菜々子 著

とにかく主人公とサイトで出会う人々の、変わりたい!自分を変えたい!誰かと出会ってエネルギーをもらいたい!と願う「変革の渇望」みたいなものにあてられてしまった。著者はヴィレッジヴァンガードの店長(当時)の女性。 結婚生活が行き詰まり夫と試験的…

「天龍院亜希子の日記」 安壇 美緒 著

知らないうちに誰かの人生にコミットする。自分の人生がコミットされる。ネット社会の新しい関係の在り方。「天龍院亜希子の日記」だけど、生身の彼女は出てこない。 主人公は天龍院亜希子のもと同級生で、そのインパクトの強い苗字でもって彼女をいじめてい…

「古書贋作師」 ブラッドフォード・モロー 著

なんとも不思議で面白い贋作師の世界ある古書贋作師が無残にも両手首を切断され殺される。 被害者の妹の恋人でやはり贋作師として数年前逮捕された主人公は、今では真っ当に働いているにも関わらず文豪の筆跡で書かれた脅迫状に悩まされ、更にはその事件にも…

「わたし、定時で帰ります」 朱野 帰子 著

どんなに仕事が山積みでも就業時間内で自分の仕事は計画通りに片付けて定時に帰るということにとことんこだわる結衣。 それは今は上司となった元婚約者の晃太郎、企業戦士だった父に対する意地でもあった。 新しい婚約者との結婚も決まり、順風満帆に思えた…

「駒子さんは出世なんてしたくなかった」 碧野 圭 著

地道に真面目に仕事と家庭を大切にしながら働くたくさんの人に読んで欲しい。出版社の管理部門の課長として働く駒子さん、42歳。 仕事には裏方としてのやりがいを、そして家庭では稼ぎ頭として主夫である夫と高校生の息子を養うプライドをもって、充実した心…

「ささやかで大きな嘘」上・下 リアーン・モリアーティ 著

大人の女性が、主体的に生きるということ、そして誰かと繋がりながら生きるということの難しさと大切さ。ある公立幼稚園で父兄によって毎年開かれるトリビアクイズ保護者懇親会。 そこで起こった殺人事件。 各章で提示される父兄の証言はバラバラで、彼らは…

「わたしの忘れ物」 乾 ルカ 著

「死んだ女より 悲しいのは 忘れられた女」大学で半ば無理やりに紹介された大型商業施設の忘れものセンターの期間限定バイト。 渋々働き始めた恵麻は、次々に持ち込まれる不思議な忘れ物と持ち主たちの「モノがたり」に触れ、次第に自分自身の大事な「忘れ物…

「スタートボタンを押してください」 D・H・ウィルソン & J・J・アダムズ編

さあ、始まる「スタートボタンを押してください」。ゲームにまつわる12の作品が収められたSF短編集。 ケン・リュウ(「紙の動物園」など)や桜坂洋(「All YouNeed Is Kill」など)、アンディ・ウィアー(「火星の人」など)といった有名どころの作品は当然…

「ヌヌ 完璧なベビーシッター」 レイラ・スリマニ 著

ベビーシッターが子ども2人を殺して自殺を図った。なぜ?事件に至る過程を丹念に追いながら、人と人の間に横たわる無理解の深い溝と絶望を描く。5月のある日、パリのアパルトマンの一室でベビーシッターが2人の幼児を殺害し自殺を図った。 「完璧なベビーシ…

「コールド・コールド・グラウンド」 エイドリアン・マッキンティ 著

国境も肌の色も言語も超えて、人はそれぞれ神様に「かくあれかし」と祈る。通勤経路に小さな神社があり、ほぼ毎朝立ち寄っては手を合わせている。 人がふたり通れるくらいの鳥居と六畳ほどの大きさの拝殿。 最初は家族のこと、仕事のことを祈っていたのに、…

「アックスマンのジャズ」 レイ・セレスティン 著

「ジャズを聴いていない者を殺す」禁酒法の発行間近の1919年4月。 暴力や人種間の争いが蔓延するニューオリンズの街に、斧を持った殺人鬼アックスマンが現れ、「ジャズを聴いていない者を殺す」という予告を新聞社に送りつけ、住民たちを恐怖に陥れる。…

映画「スリービルボード」

ミズーリ州の小さな町で、一人の娘がレイプされ、火をつけられて殺された。 その母親ミルドレッドは事件の捜査が行き詰まり放置されていることに怒り、町外れに立つ大きな3つの看板に警察署長に対する抗議を真っ赤な一面広告として貼り出した。 家族や地域…

「屋根裏の仏さま」 ジュリー・オオツカ 著

世界はたくさんのたくさんの異なる「わたしたち」で出来ている。どれもかけがえのない大切な「わたしたち」で。写真だけを頼りに新世界アメリカに旅立った日本人の「写真花嫁」たち。 彼女たちを待っていたのは、写真とは似ても似つかぬ男性や、約束された住…

「許されざる者」 レイフ・GW・ペーション 著

スウェーデン・ミステリ界の重鎮の代表作で、CWA賞、ガラスの鍵賞など五冠に輝いたという惹句もむべなるかな。本書の主人公は、物語の冒頭で突然脳梗塞で倒れた元国家警察庁長官ラーシュ・マッティン・ヨハンソン。 命拾いをしてゆっくりリハビリに励むはず…

「アルテミス」 アンディ・ウィアー 著

「火星の人」のテイストそのままに、次の舞台は月。 挑戦するなあ、著者。 重力が地球の1/6という環境で、まさに縦横無尽に飛び回る(文字通り)大活躍で月面都市アルテミスの危機を救うヒロインはジャズ・バシャラ。 優秀な頭脳を持ちながらも男を見る目の…

「晩夏の墜落」ノア・ホーリー 著

晩夏のある日、年齢も境遇もばらばらな11人の乗客を乗せたプライベートジェットが、海に墜落した。 その事故で奇跡の生還を果たした主人公と4歳の少年を巡り、事故の真相を探るため、好奇心を満たすため、あるいは野心を実現させるため、人々はそれぞれ思…

「ナショナル・ストーリー・プロジェクト Ⅰ・Ⅱ」 ポール・オースター編

どの人にも、語るべき物語がある。ラジオ番組で、ポール・オースターが全米のリスナーに彼の番組で読む実体験に基づいた短い物語を募集。 すると彼の元には4000を越すストーリーが寄せられた。 その中から選ばれた179の作品がこの文庫版のⅠ、Ⅱの2冊に収めら…

「パリのすてきなおじさん」 金井 真紀・広岡 裕児 著

おじさん好きを自称する金井さんとパリ在住の案内人広岡さんのパリ、おじさんを訪ねる旅。 一見軽い調子に見えるが、実際にはテロや移民問題で揺れるフランス、パリの現在が垣間見える貴重なレポートで、一人一人のおじさんとの触れ合いに「多様性」という言…