「許されざる者」 レイフ・GW・ペーション 著

スウェーデン・ミステリ界の重鎮の代表作で、CWA賞、ガラスの鍵賞など五冠に輝いたという惹句もむべなるかな。

本書の主人公は、物語の冒頭で突然脳梗塞で倒れた元国家警察庁長官ラーシュ・マッティン・ヨハンソン。
命拾いをしてゆっくりリハビリに励むはずが、思いがけない主治医からの頼みで、迷宮入りとなった25年前の少女殺人事件の真犯人を探すことになる。

北欧ミステリらしい硬質な文章が、人間味にあふれた主人公、心配する妻やかつての相棒、破天荒な兄や捜査を手伝う義弟と謎めいた青年などの登場人物たちを軽快なテンポで生き生きと描写する。
無能な刑事が担当したことによって長年眠っていた迷宮事件の謎が、ヨハンソンの推理で徐々に明らかになる展開にページをめくる手が止まらない。

病に倒れたヨハンソンが、死を間近に感じながら、一刻も早い、そして真っ当な事件の解決を願いつつ、一方で曲げてはならない刑事としての信念や正義のあり方を再確認していく過程が胸に響く。
また若い頃なら読み飛ばしていたような、さりげないシーンに表れる夫婦の心の機微や家族の温かさにも涙腺が刺激された。

いかなる慈悲をも与えるな。命には命を、目には目を、歯には歯を、手には手を、足には足を。(申命記19章21節)

作品のモチーフであるこの言葉が、ラストに突き刺さる。
最近読んだ本の中ではピカ一の面白さで、本邦初と聞き、出来ればシリーズ最初から読みたかったかなあ。


許されざる者 (創元推理文庫)

許されざる者 (創元推理文庫)