2016-01-01から1年間の記事一覧

「脳が壊れた」 鈴木 大介 著

脳梗塞で倒れ、一命はとりとめたもののさまざまな機能障害を発症、その後も後遺症に悩まされつつ厳しいリハビリに耐え、現在もライターとして活躍している筆者が描く病前病中病後のリアル。 脳卒中(脳梗塞や脳出血などを含めて言う)とは、がん、心臓病に続…

「ゴールドフィンチ」1〜4 ドナ・タート 著

美術館でテロ事件に遭遇し最愛の母を亡くした少年テオ。謎の老人の指示で彼はある名画をそこから持ち去ってしまう。彼とその名画を巡る数奇な運命…。ニューヨークに住む13才の少年テオは、雨を避けるために入った美術館で、爆弾テロに遭遇し最愛の母を喪う。…

「窓際のスパイ」 ミック・ヘロン 著

失敗や挫折によって役立たずの烙印を押され閑職に追いやられたスパイたちが、人生の大逆転を目指して新たなミッションに挑む!窓際族という言葉が昭和5〜60年代に流行した。 出世コースから外れたサラリーマンがメイン業務から遠い窓際の席に追いやられて毎…

「総選挙ホテル」 桂 望実 著

身売り直前のホテルに就任した新社長の立て直し策。それは、従業員の従業員による総選挙!?先日新聞を読んでいたら、ある人が仕事を続ける秘訣として自分の仕事人生を振り返り「ぶれずに自分が『やりたい仕事』をすることだ」と語るインタビュー記事があっ…

「霧に橋を架ける」 キジ・ジョンスン 著

一度架け始めたら最後まで続けるしかない。橋を架けるということは生きることと似ている。著者初の邦訳短編集、収録された11の作品はどれも独特の味のあるものなのだが、簡単にいくつか作品の感想などを。「26モンキーズ、そして時の裂け目」 3年前のある日…

「生き心地の良い町」 岡 檀 著

ここ20年間、若者(15〜24歳)の自殺率が世界トップだというこの国で、どうやって生き心地の良い町を作っていけばいいのか。自殺希少地域、それは文字通り自殺率の低い地域のこと。 筆者は大学院修士課程で健康マネジメントを研究していた時にコミュニティの…

「肉と衣のあいだに神は宿る」 松井 雪子 著

たぶん神様はそこらここらにいて、いつでも見つけられるのを待っているのかもしれない。それが見える人に。本書の主人公は美衣。 美味しい「さくさくかつ丼」を提供する、行列ができる店「情熱とん」の看板娘だ。 ある時、三十歳を過ぎた美衣は唐突に「婚活…

「あの素晴らしき七年」 エトガル・ケレット 著

イスラエル在住の作家で映画監督でもあるエトガル・ケレットが、息子が生まれた年から父親が亡くなる年まで7年間の出来事を綴る36篇のエッセイ集。本書は、ホロコーストの経験者である両親の間に生まれ、戦闘の続くイスラエルで子どもを育てるユダヤ系作家…

「暗黒少女」 秋吉理香子 著

二転三転する美少女の実像と一見美しく華麗なこの文学サークルの正体は、ラストですべて明らかになる…キャー!! ある私立女子校の文学サークル定例会ーそこでは伝統に従って闇鍋が開催されている。 そして闇鍋を味わうと同時に行われるのは、部員6人による…

「アリスのままで」 リサ・ジェノヴァ 著

さまざまなものを失いながら、アリスはいつまで「アリスのままで」いられるのか。人はいつまで「その人」としてあり続けられるのか。 アリスは50歳、言語学の教授としてハーバード大学の終身在職権を得ている。 働き盛りで、夫は医師として充実した生活を送…

映画 「さざなみ」

映画の原題名は「45YEARS」。 45年という長い歳月をかけて、夫婦が築き上げてきた信頼と愛情に基づいた関係が、たった一通の手紙によってひびが入り、崩壊の危機を迎えるまでの一週間を丁寧に描く作品だ。 うーむ。 「ラスト15秒に世界が驚愕!」 とチラシに…

「父の生きる」 伊藤 比呂美 著

身につまされ、ちょっと勇気づけられながら、泣くに泣けない境遇を笑い飛ばす。父のためにアメリカと日本を行き来する日々を描く著者の介護日記。 ここしばらく家族のあれやこれやで文字通り走り回る毎日だった。 まとまった時間が取れなくて、日記形式にな…

「蒲公英王朝記 巻ノ一 諸王の誉れ」 ケン・リュウ著

「紙の動物園」のケン・リュウが語りなおすSF版「項羽と劉邦」。本書の主人公は2人の男。 1人はある国の由緒正しい貴族、有名な将軍の孫として生まれたが、生後まもなく故国は他国との戦いに敗れ、祖父をはじめ一族の者は年若い叔父一人を残して全員が敵に…

「未成年」 イアン・マキューアン 著

尊重すべきは法か宗教か愛か。「裁く」だけでは答えの得られない問いに向き合うということ。本書の主人公は女性裁判官フィオーナ。 物語は、彼女が夫から婚姻関係を維持したまま別の女性と関係を結びたいと告げられるところから始まる。 夫は近づく老いに抗…

「モダンガールのス丶メ」 淺井 カヨ 著

あなたもわたくしも、大正〜昭和を楽しんで、ス丶メ!モダンガール!本書の著者、淺井カヨさんは大正65(昭和51)年生まれ。 小学校低学年の時に日本大正村と博物館明治村に家族と訪れて以来、當時の建物などに魅せられ、つひには大正末期から昭和初期の時代…

「レモン畑の吸血鬼」 カレン・ラッセル 著

ホラー?SF?ミステリー?作品ごとに異なる印象の、けれど、どれも際立って個性的な作品が集められた著者の第二短編集。 どの作品も、哀しさと怖さと、そしてどうしようもない愛おしさにあふれていて、読んでいる途中で息がつまるような胸の痛みと苦しさを何…

「家康、江戸を建てる」 門井 慶喜 著

江戸という町が作られる過程で、天与の才、天稟を発揮しその礎を築いた人々を描く連作集。 本書は、徳川家康が豊臣秀吉から関東八か国への国替えを命じられた場面から始まる。 この時、家康は四九歳。 決して若いとは言えない年齢にもかかわらず、家康は国替…

「ウィンター家の少女」 キャロル・オコンネル 著

女性刑事マロリーシリーズの第8作。今回は58年前、虐殺事件が起こったゴシック邸宅で保釈中の殺人犯が殺された、という事件をきっかけに、時代を超えた2つの事件の真相をマロリーが追うという展開。 キャロル・オコンネルの代表作、女性刑事マロリーシリー…

「フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち」 マイケル・ルイス 著

アメリカの証券市場を取り巻く「陰謀」としか言いようのない状況と、それを正すために動く男たちを描くノンフィクション。公平、公正な金融市場を作るという彼らの戦いは、私たち日本人にとっても他人ごとではない。私は陰謀論マニアである。 仕事柄人の話を…

「この世にたやすい仕事はない」 津村 記久子 著

こうして思いもよらない仕事を短期間に次々体験することは、人が人生の中でかなり多くの時間を費やす仕事というものを客観的に見つめ直す良い機会なのかも知れない。以前、美容室は行きつけがあるタイプか、それとも初めての方割引などがある美容室を転々と…

映画「ルーム」

「世界」とは、その人自身が引いた境界線の内側のことだ。映画の冒頭、何十分間か続く母と子、ママとジャックの日常。 キッチンと一緒になったリビングにむき出しのバスタブが見える狭い部屋、そして2人が目覚める小さなベッド。 浴室でストレッチやヨガをし…

「盗みは人のためならず」 劉震雲 著

ドミノ倒しのように、事件が事件を呼び、次々に人々が巻き込まれ大騒動になる。このテンションの高さ、嫌いじゃない。いやむしろ大好き。先日職場で受けた研修で、どうしてだろう、すごくモヤモヤしてしまった。 困っている人のために、とても熱心に力を尽く…

「古書泥棒という職業の男たち 20世紀最大の稀覯本盗難事件」 トラヴィス・マクデード 著

「重視すべきは、盗まれた本の価値ではなく、本を盗むことは多くの利用者から読む権利を奪うことだという事実である」 以前、ある詐欺集団が摘発され、詐欺行為を行っていたという場所にカメラが入った。 ズラリと並ぶ電話機、TV画面に映る早番・遅番の引継…

「kotoba(コトバ)」 第23号 季刊誌 2016年春号

特集は「映画と本の意外な関係」。本が好きな方にも、映画が好きな方にも、両方にたまらない内容となっている。 特集は「映画と本の意外な関係」。 本が好きな方にも、映画が好きな方にもたまらない内容となっている。 ざっと目次を眺めてみると…。 「映画の…

「地球の中心までトンネルを掘る」 ケヴィン・ウィルソン 著

一人でいることのさみしさと一人でいることの快感を行ったり来たりしながら、ときおり誰かと繋がる瞬間があって。それがささやかで、貴重な一瞬だからこそ、それは本書のように美しい物語に結晶化するのだ。不思議な物語が10と1つ。 いずれも主人公達は聞い…

「べつの言葉で」 ジュンパ・ラヒリ 著

今週のお題「方言」たまたま今週のお題が「方言」だったので、参加してしまいました。与えられた場所や言葉ではなく、自分が選んだ場所で自分が選んだ言葉を使って、考え、語り、書くことで、少しずつ人は自分の居場所を新たに得て、変わっていくことができ…

「タイガーズ・ワイフ」 テア・オブレヒト 著

人は絶望的な状況の中で、とても不思議なあいまいな存在を作り出し、それを愛することで絶望から逃れようとするのかもしれない。本書の舞台は紛争の続くバルカン半島のとある国。 語り手はそこで医師として働く女性、ナタリア。 彼女が紛争の相手国である隣…

「坊ちゃん」 夏目漱石 著

無条件で誰かに愛される経験は、世界で生きていくのに、アドバンテージというかある種のプレゼントをもらっているのに似ている 正月休みに帰省したうちの息子を見て、涙ぐむ母。 とは言っても、これは息子の帰省のたびに繰り広げられる皆んなでちゃちゃをい…

「古書奇譚」 チャーリー・ラヴェット 著

シェークスピアの正体を暴く一冊の古書。その真偽を明らかにするために奔走しながら、罠にはまり、殺人犯に仕立てられ、命を狙われる主人公。加えてロマンチックな恋あり、冒険あり、涙ありの盛りだくさんのビブリオミステリー。 シェークスピアの正体を暴く…

映画「黄金のアデーレ 名画の帰還」

一枚の絵画を巡り、オーストリアという国と、一人の女性と若き弁護士が裁判で争う…この設定だけでも人々の足を映画館に運ばせる要素としては十分だ。けれど、この映画の見どころは、なによりも「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像Ⅰ」という作品の魅惑的で…