2012-01-01から1年間の記事一覧

「盤上の夜」 宮内 悠介 著

盤上で繰り広げられる観念の世界。6つの遊戯を通じて描かれるその「厳しさ」「残酷さ」そして「美しさ」。盤上に存在するのは「なにもの」なのか。オセロゲームが流行し始めた頃、その「美しさ」にしばらく虜になってしまった。 白と黒が盤上で、一指しによ…

「天平グレート・ジャーニー ーー遣唐使・平群広成の数奇な冒険」 上野誠 著

天平の昔、遣唐使の旅は、いずれも厳しいものであったが、天平5年に出発した遣唐使たちの旅は、ことに苦難多きものだった。そして、この本の主人公にして、この旅に判官として参加した平群広成という人物の人生もまた。 天平5年、多治比広成を遣唐大使とする…

「私とは何か ーーー「個人」から「分人」へ」 平野啓一郎 著

自分ってなんだろう。「本当の私」はどこにいるんだろう。そんな疑問を感じた時、少し世界の見え方を変えてみるのはどうだろう? 自分ってなんだろう。 目の前に現れる他者にとって、「私」は明るい私であったり、真面目な私だったり、怖い私であったり。 何…

「ブラックアウト」 コニー・ウィリス 著

時は1940年、ロンドン大空襲(ブリッツThe Blitz )の真っ只中。タイムトラベルしたオックスフォード大学史学部の学生たちが予想外のトラブルによりとんでもない事態に巻き込まれる。作者の過ぎ去った時間や今は失きものへの哀惜が伝わる、胸苦しくも味わい…

映画「アルゴ」

「最低」の脚本が演出する「最高」の脱出劇。手に汗握るイラン革命下での大使館員6人の救出作戦は奇想天外な方法で行われた。余りにも劇的で、余りにもサスペンスフルなその作戦とは。 1978年のイラン。 英米の傀儡だったパーレビ国王はイランの民衆によって…

「化石の分子生物学 生命進化の謎を解く」 更科 功 著

オーソドックスで堅苦しい、「そのまんまじゃん」という題名で損をしている気がするのだが、読んでみるとまるでサスペンス、推理小説のような楽しさ。分子古生物学という学問の面白さを伝える絶好の本。 先日、ネットでこんな記事を目にした。「鳥類の祖先と…

「OPEN アンドレ・アガシの自叙伝」 アンドレ・アガシ 著

男子テニスでグランドスラム全制覇&オリンピック優勝、世界ランキング1位。しかし彼はテニスが大嫌いだった。つまりこれは、大嫌いなことをして、世界一になった男の自叙伝なのである。 誘われたのは、表紙の顔。 無精ひげを生やした彫りの深い顔。 だけど…

「首斬り人の娘」 オリヴァー・ペチュ 著

17世紀半ばのドイツ。未だ中世の迷信と偏見を残すショーンガウの街で、作者の先祖である首斬り人クィズルとその娘マグダレーナ、町医者ジーモンが連続する孤児殺人事件の犯人を追う。はたして3人は、魔女の濡れ衣を着せられた無実の産婆を処刑までに救うこ…

「式の前日 The Wedding Eve」 穂積 著

先日、新聞書評で火が付き、その後ネット上で評判になった作者初めての作品集。共に過ごす時を積み重ねて、やがて形作られる家族のつながり。それは小さな秘密や約束で出来ている…。 先日、新聞書評で火が付き、その後ネット上で評判になった作者の作品集。 …

「歌に私は泣くだらう 妻・河野裕子 闘病の十年」 永田和宏 著

乳癌で逝った歌人河野裕子の最期の日々を、おなじく歌人であり夫である著者が綴る。苦しみも喜びも歌に詠むしかない歌人の性(さが)。詠まれる歌に遺されたのは、狂おしいほど人を愛する苦しみと喜び。 題名は著者である歌人の永田和宏さんが、妻であり同じ…

「吊るされた女」 キャロル・オコンネル著

「天使の帰郷」で、つらい過去の事件とも決別したはずのマロリー。今回は女性を吊るして殺害するという異常な殺人犯との対決。天性の嘘つき、恩知らずのチビ、頑ななリアリスト、逃げ足の早いノミっ子…またまた事件とマロリーの過去が絡み合う。 久々のオコ…

「ピダハン 『言語本能』を超える文化と世界観」 D・L・エヴェレット 著

アマゾンの奥地でピダハンという部族と暮らし、伝道師としてキリスト教を伝えるはずの著者が、彼らとの30年の交流を経たのち、信仰を捨てて自らが変わっていくことを選ぶ。なにが彼をそうさせたのか。 本書はアマゾンの一部族、ピタハン(正確にはピーダハン…

「ハンガー・ゲーム」1・2 上・下 スーザン・コリンズ 著

圧政と殺戮に満ちた絶望的な世界でのシンデレラストーリー。私はちょっと違和感が・・・年齢のせいかしら。 家族の強い勧めにより、一部、二部を一気読み。 小説の背景について説明をすると。 中央都市キャピタルが周囲の12の地区を従え、キャピタルに住む一…

「ネゴシエイター 人質救出への心理戦」 ベン・ロペス 著

究極の目標は「人質を無事に救出すること」。決して「犯人逮捕」ではない。なぜって、「誘拐」も「交渉」もビジネスだから。 本書の冒頭で「身代金目的の誘拐事件の実相」と題して、このような事実が羅列されている。 ・誘拐事件は毎年、二万件以上報告され…

「犯行現場の作り方」 安井俊夫 著

現役の一級建築士が、「あの」推理小説の犯行現場となった建物を、作品中の記述を手がかりに、建築図面を引きつつ忠実に図面化し分析する。あれを実際に建てちゃったらどうなるの? この本で取り上げられているのは、意欲的な作風で謎解きに取り組んできた作…

「6人の容疑者」上・下 ヴィカース・スワループ 著

これは、奇妙ですばらしく、そして最高の人間と最低のやつらがいて、嘘みたいな優しさとけた外れの残酷さを目にする、そんな物語。 大企業であるラーイ産業グループのオーナーにして、ウッタル・プラデーシュ州の内務大臣の息子であるヴィッキー・ラーイが、…

「選択の科学」 シーナ・アイエンガー 著

今回は書評というよりも、「選択」について日頃考えていることについて書いてみたい。 この本を読んで、大学院で「ナラティブセラピー」について学んだ時のことを思い出した。 この本は選択そのものの適否について論じた本ではなく、選択をしたあとの、その…

「くちびるに歌を」 中田 永一 著

男子も女子も、それぞれが身体を楽器にして声を出す。音が混じり合い、糸をより合わせるように一つになる。キラキラしたものを眺める、その心地よさ。この本はその心地よさで出来ている。 同じ制服を着て、同じ場所で一緒に歌っていながら、メンバーの一人一…

「ベヒモス」 スコット・ウエスターフェルド 著

2作目の舞台はイスタンブール。主人公アレックとデリン(ディラン)は、このスルタン統治が末期を迎える混沌の街を、革命軍の少女、そして才知ある人造獣ボブリルと共に、革命を成功させるため、そしてリヴァイアサンを救うため、大活躍を見せる。 楽しみに…

「からのゆりかご 大英帝国の迷い子たち」 マーガレット・ハンフリーズ 著

著者が明らかにした余りにも重い事実と、彼女が挑んだ絶望的な戦い。正直「大変な本を読んでしまった」という感想。しかしこれは間違いなく、語られるべき、聞くべき、読むべき物語だ。 子供の頃、夏休みは母の実家に長期滞在するのが毎年の行事だった。 7人…

「饗宴外交 ワインと料理で世界はまわる」 西川 恵 著

他国の客人をもてなす外交的な饗宴。そこで発信される政治的なシグナルとメッセージの数々、その一方で歓迎の心を伝える人々の温かい心配り。今も会議は踊り続けているのだ。 他者をもてなす、歓待することを、英語では「hospitality(ホスピタリティ)」と…

「墨攻」 酒見賢一 著

諸子百家が活躍する古代中国の戦国時代。墨子を創始者として、「非攻論」と「兼愛説」を説き、小国や小城を救援する墨子教団。その1人である革離が単身で挑む、2万の兵を相手に繰り広げる籠城戦。 長年働いていると、玉突き式にいつの間にやら何らかの肩書き…

「理系の子 高校生科学オリンピックの青春」 ジュディ・ダットン 著

「2009年度インテル国際学生科学フェア」の出場者6人と、かつての受賞者、そしてフェアの様子とその結果を描いた感動のノンフィクション。様々な環境にいる異能の子らによる驚愕の研究の数々! 本を読むのは主に通勤の電車内だ。 自宅にいると、雑事に追われ…

「特捜部Q Pからのメッセージ」 ユッシ・エーズラ・オールスン 著

特捜部Qに届いたボトルメッセージ。手紙は劣化し、解読は困難だった。しかし唯一はっきり読める「助けて」という文字。血で書かれたその手紙が伝えようとしたのは、紛れもなく外界に向けてのSOSだった。 シリーズ3作目。 本書では、不思議なボトルメッセー…

「トッカン 特別国税徴収官 」 高殿 円 著

悪質滞納者と戦う新人徴収官ぐー子と最強の特別国税徴収官、通称「トッカン」鏡雅愛。数々の脱税の手口とそれを見抜くプロのテクニック。面白くてためになる、おしごとAND成長小説。 日本国憲法 第三十条 国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負…

「特捜部Q キジ殺し」 ユッシ・エズラ・オールスン 著

新メンバーを迎え、ますますハチャメチャぶりに磨きがかかる特捜部Q。カールの受難が続くシリーズ第2弾は20年前の解決済みのはずの事件の隠された真実を暴く。特捜部Qの第2の事件はなんとも不思議な始まり方をする。 いつのまにやら、机の上に置かれた事…

「特捜部Q 檻の中の女」 ユッシ・エズラ・オールスン著

眠れる事件を掘り起こすために新設された「特捜部Q」。頑固者刑事とイスラム系外国人の助手のコンビは、孤独な戦いを続ける檻の中の女を助け出すことができるのか。北欧発のとびっきりの警察小説。 モースは亡くなった。 新しいパスコーとダルジールには会え…

「SOSの猿」 伊坂幸太郎 著

ある件でトラブルに巻き込まれた方のお手伝いをしていて、最終的に解決をみた。 お礼に来られたその方が、突然「これが解決したのも、◯◯さまのおかげです。良かったら、一緒に拝んでもらえませんか?」 と言われた。 ◯◯は、よくきこえなかったが、何かの名前…

「人質の朗読会」 小川洋子 著

その朗読は何かに捧げる供物。生きていたことの証。ここにいない人の木霊。 本を読み終えて、よく考える。 あの子はこれからどうするんだろう? あの2人はこの後、どうなるんだろう? 時には哀しい結末に耐えきれず、勝手にハッピーエンドに上書きしたりも…

「情熱の階段」 濃野 平 著

単身スペインに渡り、徒手空拳で挑む最上級の闘牛士、マタドール・デ・ピカドールへの道。今も続く著者の15年に及ぶ渾身の戦い。ここにあるのは、あきらめないことの苦しみと喜び。学生時代、音楽にのめり込む数年間を過ごした。 周りには同じ年頃、同じ学…