「式の前日 The Wedding Eve」 穂積 著

先日、新聞書評で火が付き、その後ネット上で評判になった作者初めての作品集。共に過ごす時を積み重ねて、やがて形作られる家族のつながり。それは小さな秘密や約束で出来ている…。


先日、新聞書評で火が付き、その後ネット上で評判になった作者の作品集。
帯には、


「鮮烈新人・穂積、デビューコミックスにて最高傑作。"泣ける"よみきり6編!」


とある。
余りの人気ぶりにしばらく入手困難だったが、やっと本屋さんで遭遇、めでたく我が家にお迎えした。


淡々と進む日常の些細な出来事。
洗濯、掃除、食事…。
時折、違和感を覚えつつ、読み進めて行くと最後に急反転する物語の世界。
その様変わりが見事で、思わず最初に戻って読み直し、違和感を解消する。
そして、実はその台詞は極めて適切に計算通りに置かれていたことに気づく。
ああ、なるほど、上手いなあ…。


心震えてしまうのは、家族の話だからかな?
誰もが(少なくとも生物学的には)、持っている家族。
ともに時を重ねて、積み上げた善きものや悪しきもの、美しいこと、くだらないこと。
家族にしか分からない家族だけの秘密や約束。
たとえば「料理に玉ねぎを入れないこと」。
こんな些細なことに確認しあえる家族のつながり。
そして、この世に1人ではないこと。


どの話にも「世界の反転」があり、いかに自分が先入観の奴隷であるか分かった。
これは私が「物語」にスレてるのか、作者の上手さなのか…。
でも他の皆さんの感想を読む限り、スレているのは、私だけではないみたい。


それはともかく。
本作はどの作品も粒ぞろい。
どれを読んでも、読後にふと自分自身の日常や自分の家族を思い返してしまう。
自分の家族に屈折した思いを抱える私ですら、いや、だからこそかもしれないが。
このイメージ喚起力はすごい。
「デビューコミックスにて最高傑作」とは失礼なコピーだな。
これからも「最高傑作」を楽しみに待ちたい作者さんである。


式の前日 (フラワーコミックス)

式の前日 (フラワーコミックス)