「理由のない場所」イーユン・リー 著

16歳で自ら死を選んだ息子と言葉を交わす場所。 そこは、言葉によって新たな生命を与えられた彼と、交わることができる唯一の場所。 本書は、母である著者がそこで彼と交わす会話を、彼が亡くなった年齢と同じ16の章に分けて綴ったものだ。 もちろん、亡くな…

「死亡通知書 暗黒者」 周 浩暉 著

中国でシリーズ累計120万部突破、ドラマ版は24億回再生という超人気の華文ミステリ。 1人の刑事が予告殺人鬼<エウメニデス>に殺された…そこから始まる連続殺人事件。 <エウメニデス>はネットで次の犠牲者の候補を募り、衆人監視の中、驚くべき手口で…

「ベル・カント」  アン・パチェット 著

世界が美しいのは私たちの生が永遠ではないから。 そして次の瞬間には消えてしまうから歌はあれほど魂を揺さぶるのだ。 ベル・カント (ハヤカワepi文庫) 作者:アン パチェット 発売日: 2019/10/17 メディア: Kindle版

「名もなき人たちのテーブル」 マイケル・オンダーチェ 著

昨秋、思いかけず一週間の船旅をすることになり、ワクワクしながら船を舞台にした小説を探した。 読むんだ!読むんだ!船のデッキで!潮風に吹かれて。 豪華客船での殺人事件、幽霊船との遭遇、嵐で遭難…なかなか面白そうな本が集まった中で、結局どっぷりハ…

映画「プリズン・サークル」

「プリズン・サークル Prison Circle」(坂上香 監督)というドキュメンタリー映画を観た。 罪を犯した者たちが丸く椅子を並べて、自身の犯した事件について、被害者について、互いに質問し合いながら重い口を開く。 その語りが積み重なるにつれ、彼らが自分…

「急に具合が悪くなる」宮野真生子、磯野真穂 著

本書は哲学者である宮野真生子さんと人類学者である磯野真穂さんという2人の学者の間で交わされた2ヵ月間(2019年4月27日の磯野さんの第一便から同年7月1日の宮野さんの第十便まで)の往復書簡を収めたものである。 女性2人の往復書簡と聞けば食べものや旅行…

「家庭の医学」 レベッカ・ブラウン 著

母親が病を得て亡くなるという経緯を「貧血」「転移」「嘔吐」「モルヒネ」などの医学的な用語の付いた章ごとに語られ、体裁はそう、まるで医学書のようでもある。 「家庭」という真綿に包まれたような曖昧で温かな空間に、突然「医学」が入り込んだ時、家族…

「翡翠城市」 フォンダ・リー著

翡翠を身につけることによって感覚機能を増大させ、怪力や敏捷性などの超人的パワーを発揮することができる「グリーンボーン」たち。 彼らの住むケコン島では街のさまざまな利権を巡って2つの勢力、無峰会と山岳会が凌ぎを削っていた。 ところがある事件をき…

「マンハッタン・ビーチ」  ジェニファー・イーガン著

第二次世界大戦の混乱の中にあるアメリカで女性潜水士を目指す主人公アナと、彼女の人生に影響を与えた2人の男の物語。 1人は母とアナ、障害のある妹を残して5年前失踪した父エディ。 そして父の雇い主で、その行方を知っているはずの男、ギャングのボスで…

「月下の犯罪」 サーシャ・バッチャー二著

本書の副題「一九四五年三月、レヒニッツで起きたユダヤ人虐殺、そしてあるハンガリー貴族の秘史」で挙げられているのは、1945年3月24日の夜に、ハンガリー国境沿いのオーストリア、レヒニッツという村で約180人のユダヤ人が虐殺され、その遺体を同じユダヤ…

「ライフ」 小野寺 史宜 著

大学時代から同じアパートに住み続け、就職はしたものの退職し、今はコンビニや結婚式の代役出席などのバイトで暮らす27歳の幹太。 本書は、特に野望も大きな不満もなく、気がかりといえば上の階の金髪の住民の足音、ちょっと気になっているのは代役で出席し…

「今日のハチミツ、あしたの私」 寺地はるな 著

2年間同棲した安西に連れていかれた故郷で彼の父親に結婚を反対された碧。 彼女は、中学生の頃に偶然出会ったハチミツを手掛かりに、頼る人もいない場所で自分の居場所を求めて孤軍奮闘する。 食べ物をテーマにした小説はどれも好きだ。 登場人物が何かしら…

「ウーマン・イン・ザ・ウインドウ」 上・下 A・J・フィン 著

日課は映画鑑賞と隣人たちの部屋を覗くこと、そしてその合間に高級ワインに耽溺する女性精神科医、アナ・フォックス。 精神科医といっても彼女は部屋から一歩も出ることができず、もっぱら治療は同じ病気、「広場恐怖症」の患者たちが集うサイトでアドバイス…

「誰かが嘘をついている」 カレン・M・マクマナス 著

g 誰かが嘘をついている (創元推理文庫) 作者: カレン・M・マクマナス,服部京子 出版社/メーカー: 東京創元社 発売日: 2018/10/21 メディア: 文庫 この商品を含むブログを見る 読んでいてふと既視感を覚え奥付を確認。 いや、まだ新しいので二度読みしたわけ…

「欲望の資本主義」 丸山俊一,NHK「欲望の資本主義」制作班,安田洋祐

本書は、経済学者である大阪大学の安田洋祐氏がノーベル経済学賞受賞のスティグリッツ、24歳でチェコ大統領の経済アドバイザーになったセドラチェック、ベンチャー投資家のスタンフォードの3人にインタビューをしたNHKの経済教養ドキュメンタリー「欲望の資…

2年に及ぶ「懸案事項」とそのお別れについて

約2年に及ぶ懸案事項が昨日、一段落をした。 一昨日までずっと私の傍にあった未解決の難問が、唐突に解決済み、となって消失してしまった。 こんな終わり方、想像していなかった。 その懸案事項が片付く、その日が来たら… さぞかし私は嬉しいだろう、飛び上…

映画「自転車泥棒」と一億円のこと

私にとって、先日Twitterで大手ネット通販会社の社長が発表した「1億円プレゼント」キャンペーンとその後の喧騒は衝撃的な出来事だった。 あれは企業の宣伝活動だ、という人がいた。あのキャンペーンに関連するニュースは2~3日トップニュース欄を飾り、今も…

「スウィングしなけりゃ意味がない」 佐藤 亜紀 著

これは第二次世界大戦の最中、ドイツ国内で権力に反抗し続けた若者たちを描く物語。 彼らの反抗の象徴はジャズ。 ジャズこそはナチスという圧力に対抗する手段、ナチスに迎合する大人たちへの面当て、若者を縛るルールからの自由、そして異国の人々との紐帯…

「《誕生》が誕生するまで」 池田 学 著

私たちは細部であり、全部である。 私たちは微小であり、巨大である。 私たちは孤独であり、全体である。 あらゆる場所が成長し、壊れ、綻び、また生まれ続ける「人の暮らし」という巨木。 どこかで花が咲き、どこかでモノが壊れ、どこかで土や空気が汚染さ…

「最初の悪い男」 ミランダ・ジュライ 著

人は自分のキャパシティを超えるような出会いと経験をすることによって、自分の世界を鍛え直し、その枠を拡張して行くのだ。 狂おしいまでに誰かを求めて、その気持ちがこじれて、ねじれて、間違った方向に暴走してしまった43歳の独身女性シェリルと、20歳の…

「出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと」 花田 菜々子 著

とにかく主人公とサイトで出会う人々の、変わりたい!自分を変えたい!誰かと出会ってエネルギーをもらいたい!と願う「変革の渇望」みたいなものにあてられてしまった。著者はヴィレッジヴァンガードの店長(当時)の女性。 結婚生活が行き詰まり夫と試験的…

「天龍院亜希子の日記」 安壇 美緒 著

知らないうちに誰かの人生にコミットする。自分の人生がコミットされる。ネット社会の新しい関係の在り方。「天龍院亜希子の日記」だけど、生身の彼女は出てこない。 主人公は天龍院亜希子のもと同級生で、そのインパクトの強い苗字でもって彼女をいじめてい…

「古書贋作師」 ブラッドフォード・モロー 著

なんとも不思議で面白い贋作師の世界ある古書贋作師が無残にも両手首を切断され殺される。 被害者の妹の恋人でやはり贋作師として数年前逮捕された主人公は、今では真っ当に働いているにも関わらず文豪の筆跡で書かれた脅迫状に悩まされ、更にはその事件にも…

「わたし、定時で帰ります」 朱野 帰子 著

どんなに仕事が山積みでも就業時間内で自分の仕事は計画通りに片付けて定時に帰るということにとことんこだわる結衣。 それは今は上司となった元婚約者の晃太郎、企業戦士だった父に対する意地でもあった。 新しい婚約者との結婚も決まり、順風満帆に思えた…

「駒子さんは出世なんてしたくなかった」 碧野 圭 著

地道に真面目に仕事と家庭を大切にしながら働くたくさんの人に読んで欲しい。出版社の管理部門の課長として働く駒子さん、42歳。 仕事には裏方としてのやりがいを、そして家庭では稼ぎ頭として主夫である夫と高校生の息子を養うプライドをもって、充実した心…

「ささやかで大きな嘘」上・下 リアーン・モリアーティ 著

大人の女性が、主体的に生きるということ、そして誰かと繋がりながら生きるということの難しさと大切さ。ある公立幼稚園で父兄によって毎年開かれるトリビアクイズ保護者懇親会。 そこで起こった殺人事件。 各章で提示される父兄の証言はバラバラで、彼らは…

「わたしの忘れ物」 乾 ルカ 著

「死んだ女より 悲しいのは 忘れられた女」大学で半ば無理やりに紹介された大型商業施設の忘れものセンターの期間限定バイト。 渋々働き始めた恵麻は、次々に持ち込まれる不思議な忘れ物と持ち主たちの「モノがたり」に触れ、次第に自分自身の大事な「忘れ物…

「スタートボタンを押してください」 D・H・ウィルソン & J・J・アダムズ編

さあ、始まる「スタートボタンを押してください」。ゲームにまつわる12の作品が収められたSF短編集。 ケン・リュウ(「紙の動物園」など)や桜坂洋(「All YouNeed Is Kill」など)、アンディ・ウィアー(「火星の人」など)といった有名どころの作品は当然…

「ヌヌ 完璧なベビーシッター」 レイラ・スリマニ 著

ベビーシッターが子ども2人を殺して自殺を図った。なぜ?事件に至る過程を丹念に追いながら、人と人の間に横たわる無理解の深い溝と絶望を描く。5月のある日、パリのアパルトマンの一室でベビーシッターが2人の幼児を殺害し自殺を図った。 「完璧なベビーシ…

「コールド・コールド・グラウンド」 エイドリアン・マッキンティ 著

国境も肌の色も言語も超えて、人はそれぞれ神様に「かくあれかし」と祈る。通勤経路に小さな神社があり、ほぼ毎朝立ち寄っては手を合わせている。 人がふたり通れるくらいの鳥居と六畳ほどの大きさの拝殿。 最初は家族のこと、仕事のことを祈っていたのに、…