2013-01-01から1年間の記事一覧

「フライングガールズ 高梨沙羅と女子ジャンプの挑戦」 松原孝臣 著

ソチオリンピック開幕まであと2ヶ月あまり。本書を読むと、まるで親戚の子どもたちが晴れ舞台に立つのを見守るような気持ちになってしまう。飛べ!飛べ!美しいな。 本書に掲載されている写真を見て、しみじみと感じ入る。 表紙は高梨沙羅。 2013年、史上最…

「統合失調症がやってきた」 ハウス加賀谷 松本キック [松本ハウス] 著

「芸人という病人は世界を治癒する。」統合失調症を語って泣いたり、笑ったり。これが出来るのは松本ハウス以外にはないかも知れない。 先日、知人から「謝りたいことがある」とメールが届いた。 20年以上前、私にとてもひどいことを言ったこと、そして、ず…

「剣術修行の旅日記 佐賀藩・葉隠武士の「諸国廻歴日録」を読む」 永井義男 著

葉隠武士の武者修行の旅。本書は彼が付けた日記をもとに、当時の諸国や庶民の様子、武者修行の実態を再現した貴重な記録小説だ。学校でも、仕事でも、人はある時、別の環境で別の技を覚えなければならない時が来る。 結局は、RPGのように地道にコツコツ経験…

「アンティーク・ディーラー 世界の宝を扱う知られざるビジネス」 石井陽青 著

アンティーク、それはほとんどの人間よりも長く、この世に存在するものたち。私たちの知らない世界、知らない時を過ごしてきたものたち。そんなアンティークの世界を垣間見る絶好の入門書。子どもの頃、家族で骨董品の鑑定番組などを見ていると、母が「昔、…

「ドキュメント 電王戦 その時、人は何を考えたのか」

電王戦、それはプロ棋士とコンピュータ将棋ソフトとの真剣勝負。将棋に限らず、コンピュータが人間を超える日は近く、必ず来る。本書は「その時」以後を考える上で、外せない1冊だ。 電王戦、それはプロ棋士とコンピュータ将棋ソフトとの真剣勝負。 コンピ…

「BORN TO RUN 走るために生まれた ー ウルトラランナー VS 人類最強の”走る民族”」 クリストファー・マクドゥーガル 著

もしかしたら私たちは、「走る」という本来しごく単純で楽しいものを、複雑にそして苦しいものへと変えてしまったのかも知れない。時折、同じ夢を見る。 広い運動場のような場所を思い切り走っている夢だ。 私の足は軽い。 風が身体を包み込むように後ろに流…

「病の皇帝「がん」に挑む ーー人類4000年の苦闘」 シッダールタ・ムカジー 著

がん。それは重苦しい空気とともに語られる不吉な病名。しかし、その病と闘うためにしなければならないのは、無視をすることでも、忘却の彼方に追いやることでもない。私たちの生存戦略は先達の挑戦と無念を学ぶことから始まるのだ。多くの人が、身近な人を…

「グローブトロッター 世界漫遊家が歩いた明治ニッポン」 中野明 著

「Globe trotter」グローブトロッター、それは世界漫遊家。ある時は王侯貴族のように。またある時はバックパッカーのように。それは世界中を旅するコスモポリタン。そして…ちょっとモノ好きで好奇心旺盛な人々。最近、観光立国を目指すという我が国では、年…

「11/22/63」 スティーヴン・キング 著

ホラー界の巨匠が挑戦したのは、時間旅行と歴史改変もの。アメリカ人の神話「JFK暗殺事件」に挑む1人の男の過去への旅と、様々な人々が神の前で踊るダンス!ダンス! とびきりのハンバーガーを破格の値段で提供する「アルズ・ダイナー」。 猫の肉でも混じっ…

「HHhH」(プラハ 1942年) ローラン・ビネ 著

ナチスの残虐をありのままに書き記すために。「忘れられたヒーローたち」に敬意を表するために。そして私たちがより賢い選択ができるように。著者は独特の語り口で、本書を書き上げた。そう思う。 本書のテーマは、生きていればヒトラーの後継者になったと言…

「ヤァヤァシスターズの聖なる秘密」 レベッカ・ウェルズ 著

母と娘をやるって難しい。だけど、人はおそらく「母親」から逃れることはできないんだ。子供を産んだ瞬間から母親であることを逃れることもできないんだ。 現在、海外にいる娘とケンカしている。 太平洋を隔てるこのケンカを、LINEを通じて見ていた息子に鼻…

「桐島、部活やめるってよ」 朝井リョウ 著

高校生活のある瞬間、ある人々が放つ「ひかり」に気づいた瞬間、「スクールカースト」や「みんな同じ」は崩壊し、宏樹はそれまでとは違った瞳で世界を眺める。この本は1人の男の子の中で、まさに世界が一変する瞬間を描いた作品なのだ。小学校低学年の頃、あ…

「命を救った道具たち」 高橋 大輔 著

命というのはたった一つのモノがなければ救われなかったかも知れないほどに、儚く、もろい。モノというのは、その持ち主の負っているリスクの高さ、密度の濃い生き方によって価値が決まるのではないだろうか。大学生の頃、止むに止まれぬドキドキに後押しさ…

「ゆううつ部!」 東藤 泰宏 著

一生懸命や真面目が生むずれ、空回りするやる気、そして疲労感と無気力、死への誘惑。あなたも私も、誰もが無関係ではいられないそんな病気のことを元患者の皆さんから教えてもらおう。ここ数年、うつ病をはじめとする精神疾患に関わる話をよく耳にするよう…

「刑事たちの三日間」上・下 アレックス・グレシアン 著

創設まもないロンドン警視庁(スコットランド・ヤード)の殺人捜査課を舞台に、新任警部補ディや同僚たちがヴィクトリア朝ロンドンの街を駆け巡る!同僚刑事リトルの死体発見から真犯人逮捕までの怒涛の3日間を描くシリーズ第一作。 この作品は創設間もない…

「反省させると犯罪者になります」 岡本茂樹 著

人が人に関わるということは本当にしんどいことだ。だけど、世の中には、そのしんどさを避けて、簡単にしてしまってはいけない、分かりやすくしてはいけないものがあるのだろう。人と真剣に向き合うためには、きっと、惜しんではいけない時間が、手間が、あ…

映画「風立ちぬ」

夏目漱石の俳句にこのようなものがある。菫程な小さき人に生れたしこの映画を観た後に思い出したのは、漱石のこの句のことだった。 漱石は自分の持つ優秀さ、天才性に恐れ慄いた瞬間があったのではないかと思う。 そしてそれを誇りに思う一方で、それを頼り…

「ジェイコブを守るため」 ウィリアム・ランディ 著

父が息子を守る。ただそれだけなのに、残酷な、ひたすらに残酷な物語。 子育てをしている人にとって、この本はかなりキツい本ではないかと思う、特に14〜5歳の子供がいるなら尚更。 目の前にいる我が子が「僕はやっていない」と言うなら何があっても信じたい…

映画「天使の分け前」

ウイスキーなどの熟成中、樽の中では毎年2%が空気中に蒸発してしまうという。その蒸発分が「天使の分け前」。それは、人の決めたルールを超えて授けられる幸運、そして人が人に与える見返りを求めない優しさ。 様々な機会に若者の話を聞くことがある。 「…

「ゴールデンボーイ」 スティーヴン・キング 著

モダンホラーの帝王スティーヴン・キングが描くバラエティに富んだ中編集、春編と夏編のテーマは「希望」と「転落」。本書「ゴールデンボーイ」は、スティーヴン・キングの中編4作を2冊に分冊したうちの1冊で、春編「刑務所のリタ・ヘイワース」と夏編「ゴー…

「殺人者の娘たち」 ランディ・マイヤーズ 著

父親が自分の母親を殺したという重い事実を抱えて、姉妹が過ごした30数年。それぞれが苦しみながら探す、人を憎むということ、人を許すということ、人を愛するということの答え。この本は、殺人者の娘たちとして、それも父親が母親を殺したという重い事実を…

「たたかうソムリエ」 角野 史比古 著

3年に1度のソムリエのオリンピック、世界最優秀ソムリエコンクール。本書は2010年に南米チリで開催されたこの大会に結集したソムリエたちの静かな、そして熱い闘いの記録である。 世界最優秀ソムリエコンクールという名前を聞いたことがあるだろうか。 国際…

「クローディアの秘密」 E.L.カニグズバーグ 著

長女であることの不公平さに耐えかねクローディアは家出をすることにした。でも普通の家出をするつもりはない。都会の優美な隠れ家、メトロポリタン美術館に逃げ込むのだ。 クローディア・キンケイドは、3人の弟を持つ長女として家の用事と弟たちの世話をす…

「オール・クリア 1」「オール・クリア 2」 コニー・ウィリス 著

祝、完結。「ブラック・アウト」から、「オール・クリア1」、そして今月発売の「オール・クリア2」全巻四百字換算でおよそ七千枚。ラストへ向かっての怒涛の伏線回収は、最後まで読んだ者だけが味わえる快感。 完読してしまった。昨年夏の「ブラック・アウ…

「掏摸」 中村文則 著

盗みという背徳行為を繰り返し、あえて光に背を向け、下へ下へと下ることを選んだ主人公。彼はどん底の闇の中で何を見出したのか。 幼い頃は生活のためだった。 それがやがて、人のものを奪うこと自体が目的になり、持って生まれた指の形状と才能が助けとな…

「特捜部Q ーカルテ番号64ー」 ユッシ・エズラ・オールスン 著

待望のシリーズ第4弾は、約25年前の大量失踪事件。ローセが発見し、アサドが掘り、カールがハマるというパターンで、今回も特捜部Qが埋れていた不正や弱き者への差別を暴く。 本当に、待っていました。 待望のシリーズ第4弾は、特捜部Qのアシスタントの1…

「マジック・フォー・ビギナーズ」 ケリー・リンク 著

不思議で、それでいて普通。優しくて、そして残酷。バカバカしくてそれでいて真面目。矛盾している?でも、世界ってそうじゃないの? 本書のあとがき解説によると、「宇宙は神によって作られたと思うか、ビッグバンで始まったと思うか」というアンケートに対…

「ガラスの宮殿」 アミタヴ・ゴーシュ 著

この本は、かつて「黄金の国」であったビルマ(現ミャンマー)を舞台に描かれる、壮大な歴史小説であり、稀なるラブストーリーであり、連綿と続く家族の物語であり、そしてその全てである。 ゴールデンウィーク後半用の600ページ超の本を1日で読了。 心揺す…

「三文未来の家庭訪問」 庄司 創 著

人が、生物が、生きていく。天国と地獄の狭間で、未来で、遠い過去の深海で。どんな時代のどんな場所でも、生きるための力、未来を見つめる光を感じさせる作品たち。 短編が3編、それに「三文未来の家庭訪問」のおまけマンガ(これ好き。もしかしたら本編よ…

「弱くても勝てます 開成高校野球部のセオリー」 高橋秀実 著

毎年東京大学に200人近くが進学するという超進学校の硬式野球部。グラウンドでの練習は週1回3時間のみ(雨天中止)という彼らが、強豪校に挑む。その独自のセオリーとは。 最近、各種スポーツ関連の部活動における体罰の問題が巷間で取りざたされている。 確…