「特捜部Q ーカルテ番号64ー」 ユッシ・エズラ・オールスン 著

待望のシリーズ第4弾は、約25年前の大量失踪事件。ローセが発見し、アサドが掘り、カールがハマるというパターンで、今回も特捜部Qが埋れていた不正や弱き者への差別を暴く。


本当に、待っていました。
待望のシリーズ第4弾は、特捜部Qのアシスタントの1人、ローセが発掘した大量失踪事件。
前作から、ローセが発見し、アサドが掘る、カールがハマるというパターンが続いている。


今回の事件は、約25年前のほぼ同日前後に一見無関係に見える5人の人間が忽然と消息を絶っていたというもの。
やがて捜査の進展と共に、スプロー島という場所がクローズアップされる。
この島は50年ほど前、当時の倫理観にそぐわない"身持ちの悪い女性"を、社会から排斥するために収容していた島。
彼女たちは職員たちによって執拗で陰湿な虐待を受け、島を出たい場合は不妊手術の同意書にサインをしなければならなかった。


やがて捜査線上に、この島にいた1人の不幸な女性とある男性の名前が浮かび上がってくる。
その男性は、排他的・差別的スローガンで人気急上昇の新政党を率いる元産婦人科医。
彼は自ら神のごとく、生まれるべき人間、生まれるべきでない人間を選別し、生まれるべきでない胎児は「処置」、さらに産むべき女性と産むべきでない女性を選別し、産むべきでない女性には了解なく二度と産めないよう「処置」を施していた。
特捜部Qの捜査の進展は彼にとっては破滅を意味する。
そのため、彼はカールとアサドを亡きものにするべく指示を出す…。


前作でもつくづくそう思ったのだが、作者は様々な極限状況の中で苦しむ女性を描くのが上手い。
1作目では閉じ込められた女を。
2作目では追い詰められる女を。
3作目では罠にはまった女を。
そして本作では、希望を喪った女を。


女性や弱きものへの共感と救いが作者のメインテーマのように思うが、彼女たちの孤独な闘いと、男性や社会から与えられる過酷な仕打ちには胸が痛む。
日本にも、女性の性をある種の道具のように考えている政治家がいるように、北欧の国にもまた、そのような信念を持つ人物がいるのだろう。
そのような人物だとしても、彼らは自分の妻を愛していないわけではなく、むしろ家庭ではよき夫、父でもありうる、作者のこの登場人物の造形の複雑さが問題の深さを物語る。
女性の人権と性の問題は、どの国においても共通の難しいテーマの1つなのだと思う。


事件の解明と同時進行で、チーム3人の抱える「秘密」も更に更に深まって行く。
ただ、カールの「秘密」だけは本人の知らないところで大きな陰謀と関わっているようで、なかなか全貌が掴めない。
一方で、ハーディの身体にはある変化が…。
登場人物たちの「秘密」の謎解きや身体の変化、恋愛の行方は、最後まで(シリーズは10作で完結の予定とのこと)おあずけのようだ。
うーっ!これから最終巻まで、お付き合いしたい。


特捜部Q ―カルテ番号64― (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

特捜部Q ―カルテ番号64― (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)