「特捜部Q 知りすぎたマルコ」 ユッシ・エーズラ・オールスン 著

お待ちかねのシリーズ第5弾!今回は、アフリカの開発援助に絡む殺人事件と都会の片隅で逃げ惑う少年マルコを救うために特捜部Qのメンバーたちが活躍する。



お待ちかねのシリーズ第5弾。
毎回毎回トラブルに見舞われるカールだが、今回も、一目置いていた上司マークスが退職し、いけすかない同僚がその後釜になるという暗い幕開け。
カールはまったく評価していないのだけれど、この男、相棒のアサドとある秘密を共有している様子。
それに加えて、モーナとの関係も危機を迎え情緒不安定となったカール、そこに新入りのゴードンがなにかとちょっかいをかけてきて、とうとう大爆発…うわあ。


毎回、レギュラーメンバーたちとは別に魅力的な副主人公とも言うべきキャラクターが登場するのがこのシリーズのお約束で、前巻までのその副主人公は理不尽な暴力や虐待の犠牲になっている女性たちだった。
ところが、今回その副主人公は15歳の少年、マルコ。
このマルコ、暴力的で支配的な叔父が率いている一族(クラン)の一員で、コペンハーゲンの片隅で掏摸などの犯罪をさせられながら、同じ境遇の他の子供たちとともに希望のない毎日を生きている。
このマルコがあるきっかけからクランを逃亡、その際、クランの存亡に関わるある秘密を偶然発見してしまったことから、仲間たちから、そしてアフリカの開発援助に絡む謎の男たちからも命を狙われることになる。


今回の最大の読みどころは、このマルコが都会の片隅で、さまざまな追っ手から逃れて、どうやって生き延びるのかというところ。
そして、莫大な公金が絡む国際的な犯罪に絡むとんでもない連中と、しがない刑事であるカールや(刑事ですらない)アサドやローセはどうやってた戦うのかというところ。
終盤での特別自治区クリスチャニアにおける大活劇はまったく映画のようなという表現がぴったりで、本を持つ手に力が入った。
大掛かりな事件とマルコの運命といういずれも大変な問題に、今回もきちんと落とし前がついているのはさすがとしか言いようがない。
また今回も、強烈さで他を圧倒する”死ぬまで現役”の女王カーラが登場!
いつもガツンとくるセリフを言い放つお気に入りのキャラなのだが、今回もお見事!な一言を放っている。


本シリーズは1作1作が別の話、別の事件として完結しているのだけれど底流に常に1作目から未解決のままの「釘打ち機事件の謎」が存在している。
今回もカール本人が忘れているのか、あるいは何かの罠なのか、この事件に関する不穏なシグナルが何箇所かで点滅している。
そして同時にこれと並行して描かれるのが、寝たきりになると宣告されカールに引き取られた同僚ハーディの身体機能の回復。
これらの落とし前はシリーズ最終巻までのお楽しみにとっておくしかないようだ。
本シリーズ、本国だけでなくドイツ、アメリカでも人気のようで、どうやら最近映画化もされたようだ。
動画サイトでその予告編を観たところ、カールもアサドも私のイメージとはちょっと違っていたものの(カッコよすぎ)、一種のアレンジとして、これもまた楽しみの一つになりそうだ。


全10作を予定している本シリーズもちょうど折り返し地点に到着。
まだまだ読めるという幸せと、早く先が読みたいという中毒者の呪いとを感じつつ、次作を待つとしよう。



特捜部Q ―知りすぎたマルコ― ((ハヤカワ・ポケット・ミステリ))

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