「クローディアの秘密」 E.L.カニグズバーグ 著

長女であることの不公平さに耐えかねクローディアは家出をすることにした。でも普通の家出をするつもりはない。都会の優美な隠れ家、メトロポリタン美術館に逃げ込むのだ。


クローディア・キンケイドは、3人の弟を持つ長女として家の用事と弟たちの世話をする毎日を送っている。
4人兄弟で唯一の女の子ではあるが、これは明らかに不公平なことだ。
そこで、クローディアは2番目の弟ジェイムズ(ジェイミー)を連れて家出をすることにした。
しかし普通の家出をするつもりはない。
「逃げ出す」のではなく、どこかに「逃げ込む」のだ。
それも都会の優美な隠れ家、メトロポリタン美術館へ。


メトロポリタン美術館での2人の暮らしは確かに優美だ。
見学の子供たちの群れに紛れて美術品を鑑賞し、一緒にランチを頂く。
そして素敵な噴水で体を洗い、パジャマに着替えて展示品のアンティークの寝台で眠るのだ。
幼い頃、夢に見た理想の家出がここにある!
そして、クローディアはミケランジェロ作ではないかと目される素敵な天使像に魅せられ、その正体を探るべく調査を始める…。


この作品は、児童向け小説として40年以上前から親しまれ、数年前、大貫妙子さんがこの作品をテーマに曲を作り、NHKのみんなの歌で流れたとの情報もネットで知った(動画サイトで見ました)。
少女が大人になるために必要な「秘密」、それさえ持っていれば、女英雄になれなくても大丈夫なもの。
単なる家出の話ではなく、そんな秘めたテーマもあり、全く古めかしい印象はない。
また、あんなに不公平を感じていたのに、家出に同行させた弟のジェイミーとの交流も微笑ましく、2人が利用し利用される関係から、かけがえのないパートナーに変わっていく過程がまた共感を誘う。


「そうか、おねえちゃんはぼくと同じくらい長くぼくを知ってるんだね。」ジェイミーはわらいながらいいました。
「そうよ。」クローディアはいいました。「あんたが生まれるまえから、あたしはずっといちばん上の子だったのよ。」


この部分を読んで、幼い日を一緒に過ごした弟のことを思い出された。


3歳下の弟は単純で人を信じやすい子供で、理屈っぽい姉に反論できるほどの度胸も反抗心もボキャブラリーもなく、様々な人体実験、着せ替え人形の役割はもとより、お菓子の数もケーキの大きさも私の意のままになってくれた。
それに対して、私は年貢の出来高を心配する代官が領民に与える程度の思いやりしか彼には示して来なかった。
しかし、「図書館に弟を忘れてきた事件」は、私にもかなりこたえた。
司書さんの電話に慌てて迎えに行った私の目の前で泣いていた弟は、本当に小さく幼気で、その日から私にとって弟は搾取するものではなく、守るべきものに変わってしまった。


そして今、弟とは父の介護などの打ち合わせで、3日に1回はメールを交わしている。
会社では責任ある仕事をこなし、子供もいて、すっかりおじさんになってしまった彼に、
「あの時はごめんね」
と送ったら、なんて返事がくるだろう。
あまりに心当たりがありすぎて、どの時のことだか決められないかも知れないが。


クローディアの秘密 (岩波少年文庫 (050))

クローディアの秘密 (岩波少年文庫 (050))