「ゆううつ部!」 東藤 泰宏 著

一生懸命や真面目が生むずれ、空回りするやる気、そして疲労感と無気力、死への誘惑。あなたも私も、誰もが無関係ではいられないそんな病気のことを元患者の皆さんから教えてもらおう。

ここ数年、うつ病をはじめとする精神疾患に関わる話をよく耳にするようになった。
公言するのがはばかられる空気もあるのだろうが、実は潜在的な患者数というのはかなりの数に及んでいるのではないかと思う。
2011年には「厚生労働省ががん、脳卒中心筋梗塞、糖尿病の4大疾病に、新たに精神疾患を追加して5大疾病とする方針を社会保障審議会医療部会に報告し了承された」というニュースが流れた。
今や精神疾患は国民病となりつつあるのだ。


この本は、自身もうつ病で休職し、現在も闘病中の東藤泰宏さんによるうつ病の回復者へのインタビュー集だ。
「ゆううつ部」というのは、うつ病患者である自分たちの手でうつからの回復サービスを作ろうと、2011年に東藤さんが設立したU2plusの情報発信ブログのことで、ブログではうつ病の人を対象に認知行動療法サービスなどの情報提供を行っている。


私も仕事の関係で、そして自分自身や周囲の人のために、精神疾患に関する本を読んでいるのだが、中でも当事者の方が書かれた本は、筆者も指摘するように「腕のあるフリーランサーや有名人によるものがほとんど」だ(中には「べてるの家」のような当事者本もあるが)。
ある程度学術的な本になると、医師などの治療者の視点が入ってしまい、外から患者さんを観察しているような姿勢が気になってしまう。
いわゆる普通の生活を送る普通の方の回復に至る体験談が読みたいなあと思っていたところに、この本を手にしたのだが、まさに探していたのはこういう本なんだよ!とガッツポーズをしてしまった。


この本に登場するのは9人の元患者の皆さん。
それぞれが診断を受ける前に、どのような原因で精神疾患に陥ったのか、そしてどのタイミングで診断を受け、どのような治療を行ったのか、やがて寛解、回復、再発したりしながら、現在はどのように自分の生活を維持しているのかがインタビュー形式で紹介される。


「こんなにすっと伝わるの、はじめてですよ」


回答者の1人が東藤さんのインタビューにこう答えるように、うつ病当事者である筆者の質問と相づちは、とてもデリケートで、かつ共感に満ちている。
そのため通常であれば言いにくい会社や身内の方への強い不満、焦燥感、死への誘惑などが淡々と世間話のように語られる。
これは本当にいいなあと思った。


自傷行為や奇行など、他人から見るとドラマチックな出来事に焦点をあてて大げさに書きたてている読み物を見ることがあるのだが、患者の皆さんにとって、おそらくそれらは症状のごく一部に過ぎないのではないかと思う。
それらの出来事も含めて、淡々と雪が降り積もるように毎日毎日繰り返される、その「苦しい日常」こそが彼らの戦いではないだろうか。


この本を読んでいると、日にち薬という言葉が浮かぶ。
今は大変でも、今は死にたいくらいつらくても、流れる時間は確実になにかを変えていってくれる。
それが信じられたのも、何ヶ月も何年もの時間を経て、今は笑って東藤さんの質問に答えている患者の皆さんの話を聞くことができたからだ。
もちろん、このような方ばかりでないことは分かってはいるけれど。


ここのところ、予定外の出張や仕事が立て込んで、ふと気がつくと思考がマイナスに走っていることに気づいてはっとした。
落ち着いて、考えてみる。
「今、私大丈夫?」
そして、この本に書かれていた言葉を思い出してみる。


「ちょっとの無理がちょうどいい」
「できない自分を許してあげる」
「気持ちが沈んだときに、自分に対して『大丈夫』とか『そういうこともあるよね』と言ってくれる小さな先生が心の中にいるようにイメージする」


実はこのような状況になったのも、職場で精神疾患関係のトラブルが起こったからなのだが、それはまた別の話。
あなたも私も、誰もが無関係ではいられない。
この本は、そんな病気のことを理解するためのガイドになると思う。


ゆううつ部! (一般書)

ゆううつ部! (一般書)