「命を救った道具たち」 高橋 大輔 著

命というのはたった一つのモノがなければ救われなかったかも知れないほどに、儚く、もろい。モノというのは、その持ち主の負っているリスクの高さ、密度の濃い生き方によって価値が決まるのではないだろうか。

大学生の頃、止むに止まれぬドキドキに後押しされてある本の書評を書いた。
「アク・アク」、コンティキ号漂流記で有名なT・ヘイエルダールイースター島の冒険を描いた本だ。
書いたものの、誰に読んでもらえるわけでもない。
なんだかもったいなくて、ある冊子の書評欄に投稿したら、幸い掲載され、なぜか大学生協の書店のお兄さんに気付かれて1ヶ月間掲示されてしまい、恥ずかしくて店に足を踏み入れることが出来なくなってしまった。


…というわけで、昔から探検もの、冒険ものに弱い。
暖かい、もしくは涼しい部屋でポテチを食べながら、ドキドキしながら過酷な自然環境と闘う本を読む、この幸せ。
ただナマケモノのインドア派ゆえ当然キャンプなんて学生の頃以来行ったことはなく、探検ものを読んでいても時々、探検家の皆さんが使っているモノがよくわからない時がある。
ネットで探してみたりするのだけれど、今ひとつ使い途がよく分からない。
そんな私に、この本は探検必須アイテムをリアルに理解するための格好の教材となった。


著者の高橋大輔さん(当然ながらフィギアスケートのあの方ではない)は、「物語を旅する」をテーマに世界各地の神話や伝説を検証し、文献と現場への旅を重ねている探検家である。
彼がこれまでの探検で命を救ってもらったモノたち。
取り上げられている道具は全部で45個。
ミニマグライト2AA」
ジッポーライター」
「又鬼山刀」
ライカM9
「銀座 梅林の箸袋」
ぺんてる マルチ8
「アネロン」
「シャワーキャップ」
などなど。


よく知っているモノもあれば、初見初耳のモノもある。
「ケフィイエ」なんて聞き慣れないモノもあれば、「ジップロック フリーザーバッグ」なんて台所の常備品も。
モレスキン」の手帳の章もあったが、これは、ちょうど来月外国に旅立つ娘にプレゼントしたばかりだ。


各章では、モノたちの紹介と共に、著者の探検の数々や彼の探検に向かうための心構えなどが披露される。
そして彼は探検のための道具たちについて、このように説明する。


探検のための道具は、命を救うものであるばかりか、心を支えるものでもあるということだ。

道具はモノであって、モノではない。それは夢へと突き進むことを可能にする精神的な存在でもあるのだ。



「命を救った道具たち」という題名は、一方で、命というのはたった一つのモノがなければ救われなかったかも知れないほどに、儚く、もろいものだということを表している。
部屋でのんびりポテチを食べている私にとってのジップロックは、ポテチの湿気防止の道具でしかないが、命を張って自然に立ち向かう人にとって、それは自分の命をつなぐかけがえない存在だ。
つまり、モノというのは、その持ち主の負っているリスクの高さ、密度の濃い生き方によって価値が決まるのではないだろうか。


そんなことを考えて読んでみると、この本に紹介された45個のモノたちはいずれも光り輝く宝物のように思われてくる。
この本を読んで、ミニマグライトを買いに走る人がいたようだと著者のHPで見たけれど、「あー分かる!」確かにどれもこれも欲しくなってくるのだ。
が、待て待て、思い出しなさい!日本では、砂漠のど真ん中で6匹の野犬に囲まれる可能性はまずないことを。
せめて私は、お昼休みに銀座の梅林、とはいかないが、近くの蕎麦屋さんでカツ丼を食べて、午後からの探検(お仕事)に備えるとしよう。




命を救った道具たち

命を救った道具たち