「吊るされた女」 キャロル・オコンネル著

「天使の帰郷」で、つらい過去の事件とも決別したはずのマロリー。今回は女性を吊るして殺害するという異常な殺人犯との対決。天性の嘘つき、恩知らずのチビ、頑ななリアリスト、逃げ足の早いノミっ子…またまた事件とマロリーの過去が絡み合う。


久々のオコンネルの新作、おまけにマロリーシリーズの最新翻訳作。
あまりに嬉しくて、読み始める前にシリーズのおさらいをして、ついでに「クリスマスに少女は還る」と「愛おしい骨」を再読して、やっと準備完了。
こんなことやっているから積ん読本の山が片付かないのだと分かっているのに。


「天使の帰郷」で、つらい過去の事件ともいったん決別したはずのマロリー。
今回は、女性を吊るして殺害するというまたまた異常な殺人犯との対決となる。
しかし、やはり本作でもキーポイントになるのは、彼女が養父であるルイ・マーコヴィッツと出会うまでのストリートチルドレンとして過ごしたあの時期の話。
本当に作者はマーコヴィッツが好きなんだと思う。
死んだ後のマーコヴィッツの挿話が作品を重ねるごとにむしろ膨らんでいく一方。
あとがきによると、オコンネルは本シリーズをマーコヴィッツが主人公に据えて展開する予定だったとのこと。
それだけ魅力的な人物を創ってしまったということなのだろう。
作者自身がマーコヴィッツに魅入られている気がする。


今回もいつものようにマロリーを取り巻く魅力的な登場人物たちに加えて、ヒヨコ色の頭の新人刑事や、もう盛りも過ぎたマロリーの昔馴染みの娼婦たちが加わる。
彼らはそれぞれの疵を抱えながら、一人でNYという巨大な都市の中で必死で生きている。
強い者は弱い相手を思いやりながらも、優しさは、主に「放っておく」「冷たい世間へ一人送り出す」という究極の放置行為で示す。
それがこのシリーズにおける登場人物たちのルールだ。

「救済 ー それは、悪い業をすっかり買い戻すことだよ。そうすりゃ天国が盗めるの」

NYで泥棒稼業で身を立てる少女に、彼女が理解出来る言葉で「救済」について教える娼婦。
こんなすてきなセリフを言えるのは、そんなルールの中で生き残ってきた彼女だからこそ。


さて、本作は先述のようにマロリーの過去と深く関わるある娼婦に加えて、犯人に狙われる女優志望の田舎出身の女性、新人刑事の葛藤、そこに様々な人々の口から語られるウエスタン小説のあらすじが絡まり合うという重畳的な構成となっている。
どの登場人物もどのエピソードも少しずつ重なり、互いに影響しあっているため、うっかり読み流せない。
またアル中の相棒刑事ライカーの超ステキなシーンや子ども時代のマロリーの珍しい笑顔のシーンもあり、胸ときめく。


そういう意味では、すべてを見渡し、すべてを記憶する狂言回し的な役割を果たすチャールズの重要性もひときわ感じる作品だった。
相変わらずマロリーへの思いやりや愛情は報われないが。
仕方ない。
これは人を愛する代償がどれだけ大きいのか、見返りなしにどこまで人を愛せるのかを語るお話なのだから。


吊るされた女 (創元推理文庫)

吊るされた女 (創元推理文庫)