「理系の子 高校生科学オリンピックの青春」 ジュディ・ダットン 著

「2009年度インテル国際学生科学フェア」の出場者6人と、かつての受賞者、そしてフェアの様子とその結果を描いた感動のノンフィクション。様々な環境にいる異能の子らによる驚愕の研究の数々!


本を読むのは主に通勤の電車内だ。
自宅にいると、雑事に追われて腰を落ち着けて本を読む時間が取れない。
昼間は仕事だし、お風呂の中で読むのはぐにゅぐにゅになっても構わない雑誌類だと決めている。
だけど、時々、電車内で読むことが出来ない本がある。
激しく感情を揺さぶられ泣いてしまう、とか。
余りの面白さに降車駅を通り過ぎてしまう、とか。
この本がそうだ。


この本は「2009年度インテル国際学生科学フェア」、通称「インテルISEF2009」の出場者6人と、かつての受賞者、そして2009フェアの様子とその結果を描いたノンフィクションだ。


インテルISEFは全世界から参加者1500人余り、奨学金として与えられる賞金総額は400万ドル(!)、審査員は最低200人の科学者、医者、技術者、大学教授、他にもその道のプロ達が研究を評価するというケタ外れのイベントである。
またインテルISEFは世界中の高校生による科学のオリンピックと呼ばれ、日本からも毎年有望な科学オタク(著者はこの言葉をとても良い意味で使っている)達が参加している。
この本の巻末にもISEF2011で、地球化学部門3等賞と米国地質研究所賞第1位に選ばれた日本人の女子高生の体験記が収録されている(これも感動的!)。


この本に登場する高校生たち、題名は「理系の子」だけれど、そんな言葉では表現が物足りない。
この子らは「異能の子ら」だ。
それは決して悪い意味ではない。


ある男の子は10歳の時には爆薬を、そして15歳にして核融合炉を作ってしまった(今では高校生にして政府のためにテロリストの核持ち込みを防御する装置を開発している)。
2歳の時に「サンタさん、延長コードを下さい」とお願いし、何年間も学校ではイジメられ、親友は退職した物理学者という男の子は、手話を視覚化する手袋を作りフェアでの入賞とともに、セブンティーン誌で最高の男の子の1人に選ばれる。
9・11をきっかけに生き方を大きく変更した両親の元、自宅学習を続けながら14歳で大学の研究助手として働き、サイエンス・フェアの賞金王となり、やがて特許を取り会社を設立してしまった男の子。
小型のトレーラーハウスに6人家族で住む中で、喘息に苦しむ妹を温めるために空き缶で温水装置を作ったナヴァホ族の男の子。
幼い頃から病気がちの父親とともに馬と触れ合って暮らすうちに、馬の人を癒す力に気づき、それを研究発表した女の子は、獲得した賞金で大学進学の夢を叶えた。
女優への道を歩んでいた少女は、高校で仕方なく選択してしまった物理化学の実験の授業をきっかけに、ミツバチの生態に魅せられ蜂群崩壊症候群の原因を探る研究を発表する。
自閉症のいとこと心を通わせるために、特別な教育プログラムを開発した少女はサイエンス・フェアばかりでなく、CNNの《ヒーロー・オブ・ジ・イヤー》に選ばれた。
その他にも数々の異能の子らと感動のエピソードが満載だ。


私たちが作った、大多数の普通の人にとって過ごし易い社会から、その才能によって、または環境によって、その発想によって、大きく突出してしまう彼ら。
このコンクールは、ともすればはみ出し、孤立してしまう彼らをうまく救出する働きをしているのだ。


さて、2009フェアでは登場人物たちは上位入賞が果たせるのか…。


大人から見ると驚異にしか見えない研究。
だけど、彼らに「なぜ、そんなことをしたいと思ったの?」と聞いたら、「したかったから」「好きだから」と答えるだろう。
その若さゆえのシンプルさこそ、なによりこの本に私が惹きつけられた理由かも知れない。
なぜって、シンプルは何よりも強く、美しいから。
登場人物の1人に作者が「賞金で何を買うの?」と尋ねた時の彼の答えを聞くと、シンプルはとてつもなく楽しいものであることも分かる。
放射性物質だろうな」




追 記 ISEFのHPを見ると、この本の登場人物の1人が2011フェアで表彰式に立っている姿を発見!わあ、やった〜!


理系の子―高校生科学オリンピックの青春

理系の子―高校生科学オリンピックの青春