「ブラックアウト」 コニー・ウィリス 著

時は1940年、ロンドン大空襲(ブリッツThe Blitz )の真っ只中。タイムトラベルしたオックスフォード大学史学部の学生たちが予想外のトラブルによりとんでもない事態に巻き込まれる。作者の過ぎ去った時間や今は失きものへの哀惜が伝わる、胸苦しくも味わい深いシリーズ。

本書「ブラックアウト」は来年4月に発売される続編「オール・クリア」と2冊で1セットで、題名の「ブラックアウト」とは、第2次世界大戦下のロンドンにおける”灯火管制”を、「オール・クリア」は”空襲警報解除”を意味するという。


21世紀半ばタイムトラベル技術を使って、過去の歴史を実際に現地を訪れて研究するオックスフォード大学史学部の学生を主人公に、各時代における彼らの活躍を描く本シリーズ。
本シリーズには他に、伝染病が蔓延する14世紀に女子学生が舞い降りる「ドゥームズデイ・ブック」(1992)、19世紀のヴィクトリア朝を舞台とする愉快なドタバタ劇「犬は勘定に入れません」(1998)などがある。
いずれも予想外のトラブルによりとんでもない事態に巻き込まれる史学生たちの不運と奮闘が、これでもかというほど詳細な各時代のディテールと、個性豊かな愛すべき時代人たちとの交流を挟み込みながら描かれている。
いずれもどきどきハラハラの面白さなのだが、一方で「最後のウィネペーゴ」にも見られた作者ウィリスの過ぎ去った時間や今は失きものへの哀惜が伝わる胸苦しくも味わい深いシリーズだ。


そして最新作である本書の舞台は、第二次世界大戦下のイギリス。
時は1940年、ロンドン大空襲(ブリッツThe Blitz )の真っ只中である。
ウィリスは以前から本シリーズ内でも、そしてシリーズ外の作品である「マーブルアーチの風」(1999)でも、ロンドン大空襲(ブリッツThe Blitz )を取り上げていた。
並々ならぬこだわりぶりに、思い入れのある時代なのではと思っていたのだが、いよいよ本書ではこの大事件に真正面から取り組むらしい。
面白くない訳がない。


主人公の学生たちは作品ごとに違うのだが、共通して登場するのは、クールでダンディーな(というのは私の勝手な妄想だが)ジェイムズ・ダンワージー教授(と彼の知人の甥っ子コリンも)である。
どれも独立したストーリーになっているので、趣の異なる作品をどれから読んでも構わないのだが、読む前に下記のアウトラインは抑えておきたい。
�タイムトラベルは一方通行である、未来には行けない。
�過去から現代へ何かを持ってくることは出来ない。
�同じ時空間に同じ人は存在できない。


このシリーズの面白さは、思わぬトラブルにより、時代人を観察するためにタイムトラベルをした学生たちが、観察をするという第三者的な立場を死守しつつ、いつの間にか時代人たちに振り回されたり、危機を乗り切るために共に奮闘することになってしまうというところにある。
そして彼らは、そして読者も、いつの間にか、時代人たちの勇気、一途さ、健気さに力づけられることになる。


だって、保証のない明日を生きるのは私たちも同じなのだから。


本書「ブラックアウト」では、学生たちが絶望的な状況に陥るところで終了する。
まさに「ブラックアウト」である。
本物の戦争を知らない現代っ子である彼らが、この未曾有の大空襲下どう生き抜いて行くのか。
次作では文字通り「オール・クリア」となりますように。
彼らの無事の帰還を祈らずにはいられない。


ブラックアウト (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

ブラックアウト (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)