「特捜部Q Pからのメッセージ」 ユッシ・エーズラ・オールスン 著

特捜部Qに届いたボトルメッセージ。手紙は劣化し、解読は困難だった。しかし唯一はっきり読める「助けて」という文字。血で書かれたその手紙が伝えようとしたのは、紛れもなく外界に向けてのSOSだった。


シリーズ3作目。
本書では、不思議なボトルメッセージを発端に、特捜部Qの3人は、人知れず何年間も続いてきた未成年者の連続誘拐殺人事件の解明に挑むことになる。

さまざまな偶然から7年の時を経て、カールの手元に届いたボトルメッセージ。
手紙は劣化し、文章も切れ切れで読めない。
しかし唯一はっきり読める「助けて」という文字。
血で書かれたその手紙が伝えようとしたのは、紛れもなく外界に向けてのSOSだった。

しかしその時期に報告された事件には、そのメッセージに該当するようなものは見当たらない。
カールは半ば諦めてしまうが、ローセはこの手紙を手放すことが出来ない。
送り主であるP…の言葉に応えたいと願う。
その願いが届いても、おそらくPはもうこの世にはいないという予感を抱えながら。

今回も犯人は一筋縄では行かない人物。
彼の若き妻や妹夫婦、彼に利用される女性や被害者の家族も絡んで、時には時間軸も変化させながら、物語は二重三重に重層的に描かれる。
その構成の複雑さとそれを読ませる力は、1作目2作目に続いて、作者の力量が並々ならぬものだと改めて感じさせる。

また特捜部Qのメンバーであるローセが度重なるカールの専横ぶりに反発し突然の出社拒否。
なぜか代わりに双子の姉ユアサが特捜部Qのメンバーとなり(意外にも)活躍を見せる。

そして相棒アサドは相変わらず謎だらけで、怪しさいっぱい。
一方、今回も別の事件のヒントを探り出したり、意外な格闘技の才能も垣間見せるなど有能ぶりを発揮。
ついにカールにこう言わしめる。
「アサドがいなかったら、俺はいったいどうすればいいんだ?」
1作目から読んでいる読者は思わずにやりとさせられる。
そして別のシーンでのアサドのセリフがまたいい。
「私たちはいつだって一緒じゃないですか」
シリーズものの醍醐味だなあ。

カール自身は、体の不自由になったかつての相棒、ハーディを自宅で介護するために引き取る。
相変わらず家出妻のヴィガのわがままには振り回され、新たな登場人物であるヴィガの母の強烈な個性にあてられつつ、カールの悩みは尽きない。
しかし一方で、ハーディは自分が半身不随となったあの事件にカールが関わっている疑いを捨てることが出来ない。
しかしカールの記憶にはその事件のことが抜けている、あるいは故意に忘れているのかも。
うーん、実は最大のQuestionは主人公のカール自身なのかも知れない。

モーナに代わりカールのカウンセラーになったクリスは、カールの「失われた記憶の一部」を明らかにできるのか。
そしてその時、特捜部Qは、アサドやローセはどうなるのか。
我ながらナイーヴすぎると思いつつ、願わくば、後味の悪い終わり方はしないで欲しいと思う。
それほどに、このシリーズが好きになってしまったから。


特捜部Q ―Pからのメッセージ― (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

特捜部Q ―Pからのメッセージ― (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)