「ベヒモス」 スコット・ウエスターフェルド 著

2作目の舞台はイスタンブール。主人公アレックとデリン(ディラン)は、このスルタン統治が末期を迎える混沌の街を、革命軍の少女、そして才知ある人造獣ボブリルと共に、革命を成功させるため、そしてリヴァイアサンを救うため、大活躍を見せる。


楽しみにしていた第2部。
本の帯にある「スチームパンク冒険譚」のスチームパンクの言葉の意味が分からなくて、ネットで検索してみれば…出る出る。
蒸気機関の発明された19世紀ヴィクトリア朝時代を懐古する歴史改変SFの一分野」
ということで、人気ジャンルらしい。
なるほど。


本作では、改変元ととなる時代は第一次世界大戦、つまり1914年頃を想定しているようだ。
サラエボ事件(史実とは多少時間的なずれはあるが)や、チャールズ・ダーウィンの実在の孫を登場させたり、オスマントルコの革命を取り上げるなど、実際の第一次世界大戦近辺の史実とリンクさせながら、独特の妖しい、それでいて痛快な作品世界の空気を織り上げている。


蒸気機関の発達と共に機械文明の進んだクランカー諸国(ドイツ、オーストリア=ハンガリー帝国) VS  遺伝子組み換え技術が発達し様々な人造獣を作り上げたダーウィニスト諸国(イギリス、ロシア、フランス、セビリア) 。
クランカーの武器は、ギシギシと鋼鉄のきしむ音やキリキリという歯車の音が聞こえるような、蒸気で動くたくさんのウォーカー、そして稲妻を発射するという恐ろしい兵器。
そしてダーウィニストの武器は苦扁桃臭の漂う水素で空を行く大きな飛行船型人造獣リヴァイアサンやその中で働くトカゲやクラゲの遺伝子を改変した人造獣たち。
対象的な2つの陣営が、どのような戦いを繰り広げるのか。
スチームパンクファンならずとも、この「機械  対  人造獣」という魅力的なカードにはときめかずにはいられないだろう。


さて、女性にもかかわらず、それを隠して’飛行機乗り’に志願したデリン(ディラン)は、相変わらずの機転を効かせた大活躍ぶりで、軍内部での評価は高まるものの、それによってますます抜き差しならない立場に追い込まれて行く。
おまけにあまりの"男前"ぶりにときめく女子まで現れる。


公子アレックは郷愁と愛情を感じ始めたリヴァイアサンから逃亡するも、なぜか身銭を切ってスルタン打倒の革命軍に加担する羽目に。

2人の運命は迷走しているものの、次第に深まって行く信頼感や友情は今後の展開を考えると、かえって切ない結末に繋がるのではないかと不安を掻き立てる。


個人的に大好きな嫌なオヤジ、ヴォルガー伯爵は、2作目である本作ではだんだん本音が出てきた様子で、ますます気に入った。
さらに腹黒なチャーチルなどが登場すると興味深い展開になると思うのだが、これはヤング向けでしたね。すいません。


次作ではリヴァイアサンは、なんと日英同盟を結んだ日本へ。
どんな人物が新たに登場するのか、そして戦争の決着は?また、デリンとアレックの未来は。
12月発売の3作目を読むまで待つしかない!のである。




さて、ここであとがきにあった副題の問題について。
以前、違うシリーズだったが、同出版社で翻訳家の意向や読者の気持ちを無視した大幅改変騒動があった。
正直、とても混乱したし、一生懸命翻訳をされた前任の翻訳家の気持ちを考えると、よい気持ちがしなかった。
今回、翻訳家の「なぜクラーケンではいけないか」の説明は納得できるし、あえてその意見を知りつつ無理を通した出版社の決断は、読者にとって、そして出版社自身にとっても、果たしてどんなメリットがあったのかと疑問が残る。


ベヒモス―クラーケンと潜水艦 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

ベヒモス―クラーケンと潜水艦 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)