「ウィンター家の少女」 キャロル・オコンネル 著

女性刑事マロリーシリーズの第8作。今回は58年前、虐殺事件が起こったゴシック邸宅で保釈中の殺人犯が殺された、という事件をきっかけに、時代を超えた2つの事件の真相をマロリーが追うという展開。


キャロル・オコンネルの代表作、女性刑事マロリーシリーズの第8作。
本書でも、相変わらずマロリーは飛ばしている。
その美貌はもちろん、人を一瞬で凍らせる毒舌も絶(舌)好調でまったく嬉しくなってしまう。
今回は、過去に大虐殺事件が起こったゴシック邸宅で保釈中の殺人犯が殺された、という事件をきっかけに、時代を超えた2つの事件の真相をマロリーが追うという展開。


58年前、夜な夜なギャングたちも含め100人もの人々が訪れ、ジャズセッションを楽しみ歌い、踊り狂ったウィンター邸で起こったアイスピックを凶器とする9人もの大量殺人事件。
犯人は捕まらないまま長女1人が事件後、行方不明になってしまう。
そして58年経った現在、新たな殺人がその邸宅で起こり、その場に居合わせた容疑者がなんと、その行方不明の長女。
燃えるような赤毛の12歳の少女だった彼女は、真っ白な髪の老女となっていた。
58年前に何があったのか、誰が被害者たちを殺したのか。
伝説の「アイスピック殺人事件」の再来に誰もが色めき立つ中、マロリーはまず現代のウィンター家で殺された男の殺人事件を解決しようと動き出す。

あの男は確かにカスだけど、それでも私のカスではあるの。

しかしこの事件を解決しようとすれば、どうしても過去の事件の謎を解かないわけにはいかない。
いずれの事件でも鍵を握るのは、虐殺事件をきっかけに行方不明だったウィンター家の長女のネッダ。
彼女の帰還をめぐりウィンター家の面々、58年前の凄惨な虐殺事件の生き残りのネッダの腹違いの弟と妹、40歳なのに子どものような容姿の血の繋がらない姪、妹の別れた夫でありウィンター家の財産管理を代々担ってきた弁護士らがそれぞれの思惑を抱きつつ、疑心暗鬼でネッダをそっちのけで暗闘を繰り広げる。


相変わらず一癖も二癖もありそうな登場人物を配置する著者だが、いつものメンバーも安心の配置。
チャールズを始め、マロリーの養父マーコヴィッツが遺した三銃士、スロープ、ラビ・カプラン、ダフィー、そしてマロリーのおかげで毎回心身耗弱状態に陥る上司コフィー警部補もライカー上級刑事も彼女をサポートする。
そしてマロリーは、58年ものあいだ時間が凍結されていたウィンター邸に亡霊たちを呼び起こし、なぜネッダが頑なに姿を隠していたのか、その悲しい理由をも明らかにするのだ…。


以前も書いたのだけれど、本書も含め彼女の作品には、異形の存在や幽霊などがいつも登場する。
本シリーズの主人公からして、過ぎた美貌は異形と同じで、彼女を周囲から際立たたせ、孤立させるばかり。
彼らは、著者によって容赦なく異質な者として描かれ、水の中に落とした油のように周囲とは相容れない。
そうくっきりはっきりと「孤独」だ。
私は、著者がこうも異形の者にこだわる理由の一つは、その異形の登場人物がこの「孤独」という課題をどのようにして克服、または飼いならしていくのかを描きたいからではないかと思う。


異質な者の中でも最も優しい者は、その優しさゆえに傷つきやすく、そのために誰よりも厚く硬い殻をまとう。
そして、その殻は他人の優しさをはねつけるほど硬い。
なのに、人の優しさを拒否しつつ、誰よりも何よりもその優しさを守るために自分の血を流す。
本書でマロリーが、ウィンター家の少女を守ろうとしたように。
私にとって、この倒錯がキャロル・オコンネルの作品の何よりも大きな魅力なのだ。


捜査の過程で、マロリーは彼女の守護神チャールズと仲違いをし、チャールズは事件の鍵を握ると思われるネッダを「マロリーから」守ろうと奮闘することになる。
過去の2人のいきさつを知る読者は当然、この勝負、チャールズには全く勝ち目がないことには気づいていると思う。
今回は私の大好きなライカー上級刑事とコフィー警部補の受難はさほどでもなく、ホッとしているが、代わりに無謀にもマロリーに挑んだチャールズがズタズタに傷つき、ぼろぼろになってしまった。


竹書房から出たシリーズ第1作「マロリーの神託」を幸運にも手に取って以来、キャロル・オコンネルの作品は出版されればできるだけすぐに手に取ってきた。
もちろん作品によって手応えや好きの度合いが違うのは当たり前なのだけれど、マロリーシリーズに関して言えば、これほど長く続いているにも関わらず、毎回毎回またすぐに次が読みたくなるのは、主人公が「変わらない」ことが理由の一つではないかと思う。
主人公が成長するとか、周囲の人々とのやり取りによって変化していくとか、それはそれで楽しめるのだけれど、これまでのところ、第1作目から著しくマロリーが変化したとは思われない。
いっそこのまま、いつどこで手に取ってもそこに不動の女神マロリーがいる、という安心のシリーズとして存在していてほしいというのが私の願いだ。


ウィンター家の少女 (創元推理文庫)

ウィンター家の少女 (創元推理文庫)