「古書奇譚」 チャーリー・ラヴェット 著

シェークスピアの正体を暴く一冊の古書。その真偽を明らかにするために奔走しながら、罠にはまり、殺人犯に仕立てられ、命を狙われる主人公。加えてロマンチックな恋あり、冒険あり、涙ありの盛りだくさんのビブリオミステリー。


シェークスピアの正体を暴くある古書の存在。
その真偽を明らかにするために奔走しながら、罠にはまり、殺人犯に仕立てられ、命を狙われる主人公。
それだけでも十分魅力的な筋書きなのに、それに加えてロマンチックな恋あり、冒険あり、涙ありのビブリオミステリー。
3つの時代を行き来しながらラストに向かって3倍の盛り上がり。
読後にはすっかりお腹いっぱいになってしまった。


本書は3つの時代の物語が同時に進行する。
1つは1995年の現代。
主人公である書籍商ピーターは最愛の妻アマンダを亡くし、失意の中でアメリカからイギリスへと渡る。
そこで彼はある人物から書籍の鑑定を依頼され、それらの中の1つロバート・グリーン作の「パンドスト」の書き込みがある人物の特徴とされる癖のある筆跡であることを発見する。
これが真筆をだとすると、今まで百家争鳴、討論の的だった、かのシェイクスピアの正体を確定することになる…。
2つ目は遡ること12年前の1983年から始まる。
それはアメリカに住む内気で人見知りの大学生であるピーターが、己の一生を変えることになる古書と運命の女性アマンダといかにして出会い、そして一方とは別れることになったかという物語。
3つ目はさらに約400年前の1592年に遡る。
いささか山師めいた書籍商バーソロミュー・ハーボトルは、友人であるロバート・グリーンから亡くなる前の晩に渡された「パンドスト」を、ある企みを持って劇作家シェークスピアに手渡す…。


これら3つの物語は、しいて言えば現代パートが主軸になるが、どれもそれぞれに起承転結がありラストに向かうにつれ、それらすべてのエピソードが意味を持って一つに収束され、その結果、物語の盛り上がりは3倍になっていく。
特に恥ずかしがり屋で内気な大学生ピーターがアマンダと出会い、ゆっくり愛を育んでいく過程を細やかに描写する1980年代パートは、読んでいる読者の方が羨ましくなるほど「世界は二人のために」状態で(古いですね)参りましたとしか言いようがない。
一方で、なんでここまでしっかり描くのか、とも思っていたのだけれど、読み終わってみるとこのパートがあってこそ、ピーターがこの冒険を乗り越え謎を解くことができたということ、そしてこの古書の謎を解きシェークスピアの正体を明らかにするのは彼でなくてはならなかったのだということが十分納得できる。


それにしても、シェークスピア
ミステリーの世界では、彼の正体を明らかにする古書というだけで、人死にが出ることが確実という恐ろしい存在(わたし調べ)。
いつか現実の世界でも、彼の正体が明らかになる時がくるのかしら?
私は現時点では「オックスフォードのシェークスピア」説に一票なのだけれど、本書のシェークスピアもとても魅力的。
最近人気のビブリオミステリ好き、シェークスピア好きの方はぜひご一読をお勧めしたい。



古書奇譚 (集英社文庫)

古書奇譚 (集英社文庫)