「わたし、定時で帰ります」 朱野 帰子 著

どんなに仕事が山積みでも就業時間内で自分の仕事は計画通りに片付けて定時に帰るということにとことんこだわる結衣。
それは今は上司となった元婚約者の晃太郎、企業戦士だった父に対する意地でもあった。
新しい婚約者との結婚も決まり、順風満帆に思えた彼女に降って湧いた昇格と長時間残業必至な問題案件。
このままではチームが病気や退職で崩壊してしまう!自らも満身創痍で彼女が立てた作戦とは…。

無茶ぶり案件を悪名高きインパール作戦に見立て、どうしたら同僚や後輩を無理させずに働いてもらえるか、と考える結衣。
そして「為せば成る」の精神論で作戦完遂をうたう晃太郎たち企業戦士の面々。
しかし絶対に残業をしないことが前提で仕事を組み立てる結衣も、仕事量に自分を合わせる晃太郎も、どちらも「決めつけ」をすることで却って自分を追い詰めているような気がする。
インパール作戦という人の尊厳を蹂躙するような失敗を二度としない方法は、そのような無謀な作戦を提案、実行させる無能な人物たちを中枢に据える会社や社会の構造を変えることだと思う。
つまりインパール作戦がそもそも選択肢に挙がらない社会を作ること。
もちろんそれが難しいからこそ今もパワハラなどで斃れる人が絶えないのだけれど。
それは東京オリンピックという一大事業をめぐり、さまざまな有り得ない案件がまかり通っている様子を見ていると良く分かる。
おそろしい現代のインパール作戦…。
会社について、社会について考えさせつつ、ほどよく恋愛の要素も取り入れたバランスのよい小説。
一気読みしました。

わたし、定時で帰ります。

わたし、定時で帰ります。