「古書贋作師」 ブラッドフォード・モロー 著

なんとも不思議で面白い贋作師の世界

ある古書贋作師が無残にも両手首を切断され殺される。
被害者の妹の恋人でやはり贋作師として数年前逮捕された主人公は、今では真っ当に働いているにも関わらず文豪の筆跡で書かれた脅迫状に悩まされ、更にはその事件にも巻き込まれ窮地に陥る…。

物語の始まりからずっと不穏なトーンが続き、真犯人が分かる終盤までなんともモヤモヤした主人公の語りが続く。
主人公自体はとても魅力的で、語り口もユーモア混じりで饒舌。
また彼は贋作というものについて独特の考え方を披露してくれるので、なるほど贋作師は自分の仕事や在り方について、こんなふうに自己肯定感を持つのだと読者まですっかり説得させられそうになる。
しかし贋作師の語りだからいわゆる「騙り」も混じっているのではないかと読者はかなりの緊張を強いられる。
著者が書店員から文芸誌を創刊し、大学教授も務めているというだけあって、随所に古書の薀蓄や贋作の作り方あれこれ、主人公が贋作作りの中でも得意とするコナン・ドイルにまつわるトリビア、古書蒐集家の習性などの専門的な知識、見識が散りばめられ、それらもあいまって一気に読み終わってしまった。
異色のミステリと紹介にある通り、不思議な読後感の残る作品だった。

古書贋作師 (創元推理文庫)

古書贋作師 (創元推理文庫)