「最初の悪い男」 ミランダ・ジュライ 著
人は自分のキャパシティを超えるような出会いと経験をすることによって、自分の世界を鍛え直し、その枠を拡張して行くのだ。
狂おしいまでに誰かを求めて、その気持ちがこじれて、ねじれて、間違った方向に暴走してしまった43歳の独身女性シェリルと、20歳のクリー。
年齢も性格も共通点のない2人が互いの中に同じ“真っ当でない何か”を見出し、憎しみと愛情を全身で交換しながら、つかの間の同居生活を送る。
頭の中で自分本位な空想をするばかりで、他人と関わることを避けてきたシェリルが、止むを得ず関わることになったクリーに愛憎が入り混じる生の感情を抱き、身悶えする姿が愛おしい。
他人と繋がるというのは格好いいことばかりではなくて、繋がればこうして滑稽で深く濃い感情のぶつかり合いを経ることは避けられない。
醜い自分が苦しく、つらく、悲しい。
でもそれは自分の頭で考えているだけではたどり着けない境地であり、誰か他人と関わることでしか得られない生の手ごたえだ。
クリーとの関係であふれるような膨大な感情のやり取りを経て、シェリルは無償で実在の誰かを愛するという冒険に挑戦する。
かつて9歳の時に出会った赤ん坊との運命の邂逅を夢見ていたあのシェリルが!
人は自分のキャパシティを超えるような出会いと経験をすることによって、自分の世界を鍛え直し、その枠を拡張して行くのだ。
最後のシーンを思い出すと今も涙があふれてしまう。
登場人物は誰もが変人ばかりだけど、本書は人がなによりも必要としている普遍的な愛と希望について書かれた本なんだと思う。