「ささやかで大きな嘘」上・下 リアーン・モリアーティ 著

大人の女性が、主体的に生きるということ、そして誰かと繋がりながら生きるということの難しさと大切さ。

ある公立幼稚園で父兄によって毎年開かれるトリビアクイズ保護者懇親会。
そこで起こった殺人事件。
各章で提示される父兄の証言はバラバラで、彼らは殺人事件そのものよりも思い思いに自分たちの興味のあることにしか注意は向いていない。
しかしその何気ない証言がこの懇親会の日に起こった事件に繋がっていることがだんだん明らかになっていく。
けれど最後の最後まで分からない、果たして誰が加害者で誰が被害者なのか。
物語は事件の6ヶ月前から始まる…。

騒々しいママたちのやりとりや我が子優先の自分本位な本音、そしてセレブママと懐が寂しいママとの経済格差や、離婚によって複雑になった家族関係…。
本書に描かれるのは嫌になるほど現代的な親子たち、主に母親である女性たちの姿だ。
著者は軽いコメディタッチでこれらを詰め込み、随所に笑いを交えてすいすい読ませてしまうけど、もちろん本書はミステリであり、殺人事件に至る深刻なトラブルと秘密が幼稚園内に存在していることを丁寧に描いていく。
例えば家族間で起こるひどい暴力や、大人と子どもの両方に起こる残酷ないじめ、モンスターペアレントの横暴や教師たちの疲弊…。
けれどニコール・キッドマンに自ら主演、ドラマ化すると決意させた本書の最大の魅力は、これが女性の友情と自立を描く物語であるという点だ。
齢を重ねて感じる、大人の女性が主体的に生きるということ、そして誰かと繋がりながら生きるということの難しさと大切さ。
最後まで読むとしみじみとそれが分かる。
本当に、読んでよかった。


ささやかで大きな嘘〈上〉 (創元推理文庫)

ささやかで大きな嘘〈上〉 (創元推理文庫)

ささやかで大きな嘘〈下〉 (創元推理文庫)

ささやかで大きな嘘〈下〉 (創元推理文庫)