「晩夏の墜落」ノア・ホーリー 著

晩夏のある日、年齢も境遇もばらばらな11人の乗客を乗せたプライベートジェットが、海に墜落した。
その事故で奇跡の生還を果たした主人公と4歳の少年を巡り、事故の真相を探るため、好奇心を満たすため、あるいは野心を実現させるため、人々はそれぞれ思惑を抱いて彼らに接近する。
本書は、事件後この生還者2人をめぐるドラマと並行し、死者たちも加えた「その時まで」の人生を交互に描く。
それによって分かるのは、主人公も死者たちも、誰もが理由なく、善悪や貧富、年齢とも関係なく、理不尽に「生」と「死」のどちらかに一刀両断されたということ。
そのことは、多くの犠牲者を生み出す大規模な天災や事故の残酷さと、それらが起こるたびに感じる「なぜ私ではなくこの人たちだったんだろう」という気持ちを思い起こさせる。

「神は人間を、賢愚において不平等に生み、善悪において不公平に殺す」
とは山田風太郎さんの言葉。
本書を読んでこの言葉を思い出した。
こんな理不尽な神の選別に対して、人間は何ができるのか?
主人公の行動と選択は、この問いに対する答えの一つと言えるかもしれない。


晩夏の墜落 上 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

晩夏の墜落 上 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

晩夏の墜落 下 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

晩夏の墜落 下 (ハヤカワ・ミステリ文庫)