「ゲームウォーズ 上・下」 アーネスト・クライン 著

暗号を解いて、広大なバーチャル世界に隠されたイースターエッグを探せ!莫大な遺産を狙う巨大企業と、ギークたちが抜きつ抜かれつ繰り広げるサブカルチャー戦争。


ネットサーフィンしていたら、こんな言葉を見つけた

「我々は、リアルとバーチャルの対比で越境を目指す時代から、直感的に両者の区別を抜きにして生きていく時代に入った」
落合陽一 『魔法の世紀』 第1回:「映像の世紀から、魔法の世紀へ」より

著者は、『充分に発達した科学技術は、魔法と見分けが付かない』というSF作家アーサー・C・クラークの有名な言葉を引いて、今この瞬間も着々と、虚構(バーチャル)が現実(リアル)に吸収されていると説く。
想像し難い?そうでしょう、そういう人は、ぜひ本書を手にとって欲しい。
バーチャルがリアルに吸収されると、どうなるのか、その答えがここにあるから。


西暦2041年、地球はエネルギー危機や異常気象によって環境が悪化、飢餓と貧困と病気が蔓延し、所々で戦争も起こっているという状況。
生き残った人々は、こんな現実に嫌気が差し、ネットワークシステム<OASISオアシス>にログインし、現実の自分とは違う分身(アバター)を作り、そのバーチャル世界に耽溺している。
OASISは果てしなく広く、そして望むものはなんでも手に入る(富さえあれば)。
家も友だちも、ショッピングセンターも学校も図書館も過去に作られたあらゆる芸術作品、あらゆる映像、そしてゲームも。


主人公ジェイドは、このOASISをバーチャルベビーシッターにして育ったOASISの申し子だ。
孤児であるジェイドにとっては、現実世界こそが「クソったれ」で、OASISの中でアバター「パーシヴァル」としてゲームやアニメなどに浸っている時こそがホンモノの時間。
そんなある日、とんでもないニュースがOASIS内を駆け巡る。
なんとOASISの開発者で、億万長者ジェームズ・ハリデーが死去し、その時価総額2400億ドル超の彼の全資産が「あるゲーム」の優勝者に譲渡されるというものだ。
そのゲームとは、広大なOASISの中に隠されたイースターエッグを探し出すというものだ。


このエッグ探索、OASISにアクセス可能な人ならば誰だって参加は可能。
ただし、ゲームのカリスマであるハリデーのこと、エッグの隠し場所は、いくつかの暗号を解いて鍵を探し出した者しか分からないように設定している。
そしてその暗号を解くヒントは、ハリデーの愛した1980年代のサブカルチャーの中にあるとされ、エッグを探す「ガンター」(愛すべきギークたち!)はハリデーの伝記である「アノラック(ハリデーのアバター名)年鑑」を隅々まで読んで血眼になって探し回っている。
さあ、パージヴァル(ジェイド)は、OASIS内で知り合った親友エイチ、ガンター仲間アルテミス、日本人ガンターのダイトウ、ショウトウとともに、ハリデーの暗号を解き、イースターエッグを手に入れ、OASISの支配を狙う宿敵、世界最大のインターネット・プロバイダ会社イノヴェーティブ・オンライン・インダストリーズ(通称<IOI>)を出し抜くことが出来るのか。


と、キーボードを打っているだけでワクワクするような筋書きなのだけど、更にこの暗号を解いていく過程がまたたまらないんですよ。
1980年代前後のサブカルにはまっていた人ならぎゃーっと叫んでしまいそうなトリビアやお宝が登場し、特に日本人ならば感涙もののスターたちが大活躍する。
次々に脳裏に浮かぶのは、部活動帰りに友だちと帰り食いしながらゲームセンターで遊んだパックマンスペースインベーダーなどアーケードゲームの数々。
そして映画「スターウォーズ」「ブレードランナー」「グーニーズ」はもちろん、弟と正座して見入っていたアニメ、特撮の数々。


ラストの決戦には映画「サマーウォーズ」さながらに、全世界のギークたちが集結。
そして、ラスボスはあのメカゴジラが!!
そのラスボスとの最後の最後の戦いに登場するのは……。
あーそれは言えない!
日本が誇るあの怪獣、あのヒーローが勢ぞろいだなんて言えない。
私の大好きな「ミネルバX」も登場するだなんて言えなーい。
でも言いたーい!!


OASISはなんでもありのユートピアで、今後、本当にリアルとバーチャルの境界が曖昧になれば、その完全無欠さによって人はバーチャルに簡単にのめり込んでしまう気がする。
けれど私は、実は、完璧でないこと、リアルの中にある不完全さが大好きで、これこそが私たち人間には不可欠なのだと思っている。


私たちの想像力は、「不完全さ」の補完にこそ本領を発揮する。
熱狂したテレビや本の続きを、自分で勝手に空想したことはないだろうか。
大好きなものが不完全であるからこそ、私たちは想像する、そして創造力を発揮する。
ウルトラマンの背中のファスナーは、実は人間の想像力によってヒーローを完成させるためにこそ存在するのだ。
未完の映画もマンガも、私たちに補完され完成されるのを待っている。
当時のアニメや特撮を今観ると、映像は荒く拙く、戦闘もかなりゆるい。
だけど、私や弟の目には、自分たちの頭で補った完璧な光景が映っていたし、私たちはいつの日かウルトラマンと一緒にM78星雲の彼方にも飛んでいけると信じていた。
なんて幸せな子どもだっただろう。
そして著者はどれほど幸せな気持ちでこの本を書き上げたんだろう。



さて、本書は映画化が決定しているそうだが、数々のキャラクターたちの著作権、商標関係は大丈夫なのかいな…かなりややこしいことになりそうだなあ…と余計なことが気になって仕方ない。
ああ、これがオトナになってしまったということなのね…。


BGM 「完全感覚Dreamer」ONE OK ROCK