「道を視る少年」上下 オースン・スコット・カード 著

「エンダーのゲーム」の作者が描く、人や動物が通った軌跡が視えるという特殊能力を持った少年が知力を尽くして世界の謎に挑む冒険SF。

「エンダーのゲーム」を初めて読んだのは十数年前、出張に向かう飛行機の中だった。
1週間の出張だというのに本の用意がなく、あわてて搭乗する直前に本屋で適当に2〜3冊の文庫本をつかんだ、その中の一冊。
ところがその日のスケジュールを終えると、不慣れな街で本屋を求めて走り回った。
シリーズ全ての本を購入するために。
(結局「エンダーのゲーム」以外で一番気に入ったのはスピンオフの「エンダーズ・シャドウ」なんだけど)


著者であるオースン・スコット・カードは、短編集の「無伴奏ソナタ」で見られるように、様々なテーマを硬軟自在に使い分けるストーリーテラーだ。
だけど彼の真骨頂は、エンダーシリーズに代表されるように、「思春期の少年少女たちが年相応の無邪気な時間を奪われ、過酷な環境に置かれながらも知力を尽くして運命に立ち向かう」というストーリーではないかと思う。
そして本書はまさにその王道を行くものだ。


主人公リグは13歳、動物の毛皮を取りそれを売る罠猟師として父親と2人で暮らしている。
父親は片田舎の罠猟師でありながら、あらゆる学問に通じている様子で、その知識を幼い頃からリグに授けてきた。
実は、リグは「人や動物が通った軌跡が視える」という不思議な能力を持っていて、その軌道はなんと何千年前のものであろうと見分けることが可能という。
彼は父親が不慮の事故で死亡した際遺した「姉を探しに行け」という言葉を頼りに、姉と母が住むアレッサセッサモへと旅立つ。
「時を経験する速度を伸び縮みさせる」という不思議な能力を持つ彼の幼馴染アンボとともに。


本書では、このリグの冒険と並行して、彗星が月に衝突し滅亡の危機に瀕した地球から飛び立った宇宙船の乗組員ラムの物語が語られる。
ラムの宇宙船はジャンプ航法によって目的の惑星に到着する予定だったが、なぜか不思議なことが起こり、宇宙船は思いもかけない航路を辿り…。
リグの物語とラムの物語は当初は全く交差しないように見えて、やがて散りばめられた様々なヒントを拾いながら「なるほど」と納得のラストに繋がっていく。
ただし、すべての謎が明らかになるわけではないし、むしろ今後の展開が気になる終わり方。


この世界の謎を解くためにリグに同行する旅の仲間たちもまた個性的で、とても魅力的。
リグとアンボの不思議な能力は、2人が同時に発動することでさらに不思議な効果を発揮するという設定。
この設定は2人の感情のすれ違いも絡めてすごくうまいなあと思うのだけど、タイムパラドックスが余りに複雑かつ重畳的なので読んでいて混乱することも。
このあたり、好き嫌いが分かれるところかもしれない。


おそらくこの後、人類対別のルートで進化した人類という構図で新たなストリー展開が期待できそうなのだが、早川書房さんは続刊を出してくれるんだろうか。
「真実の剣」シリーズや「マラザン 斃れし者の書」シリーズは「本当にここで?!」というところで置き去りにされ、「クシエルの矢」シリーズの続編の出版は未定。
(挫折した「時の車輪」は作者をブランドン・サンダースン(!)に変更して続刊になったけど)
以下続く、ということで不安に包まれながらも買ってしまった本書だが、第1作だけでも読み応えはあり、十分楽しめる。
ただ、楽しいからこそ、次が早く読みたいと思う悩ましいシリーズになりそうだ。

道を視る少年(上) (ハヤカワ文庫SF)

道を視る少年(上) (ハヤカワ文庫SF)

道を視る少年(下) (ハヤカワ文庫SF)

道を視る少年(下) (ハヤカワ文庫SF)