「アガサ・クリスティー完全攻略」 霜月 蒼 著

アガサ・クリスティーの全99作品評論集」クリスティーのファンならぜひ手に取って欲しい本、そして読み終わったら、きっとファン同士で語り合いたくなる本。

高校生の頃、友だちと約束をした。
私はポアロシリーズを、友だちはミス・マープルシリーズを買って交換しながらアガサ・クリスティーの全作品を読破すること。
お小遣いにも不自由していた高校生の頃、約束は1年ぐらい続いただろうか。
いつのまにか気がつくと私ばっかり買っている気がしたが、そりゃ当たり前の話で、ポアロシリーズは33作品、ミス・マープルシリーズは12作品。
本書を読んで初めてダブルスコア以上であることに気づいた、遅い…。


この評論集を読んで、クリスティーの作品をいくつか読み直してみた。
改めて読むと昔は「三幕の殺人」「秘密機関」とか「茶色の服の男」とか、若いハツラツとした女性が主人公の作品がお気に入りだったのに、今は人生に疲れた中年男女が登場する「ホロー荘の殺人」「象は忘れない」とか「満潮に乗って」などに惹かれてしまう。
私が高校生の時代と比べて現在は、クリスティの人生についても映画や自伝などで明らかになっており、彼女がどのような思いでそれぞれの作品を描いたのか、登場人物たちは実人生の中の誰が投影されているのか、思いを馳せながら読む楽しみもあるからだろう。


全作品を読破したつもりだったのに、本書をみると3作品ほど見逃していたようで、おかげで新たな楽しみも出来た。
また、改めて確認してみると、あの作品とあの作品はストーリーや登場人物が重複しているとか、ある作品は他の2作品と同じテーマを扱っているとか、あの手の人物とあの手の人物がよく登場するとか…。
全体を俯瞰して評論されると、なぜ私がアレとアレをいつも混同してしまうのか、なぜアレの犯人がすぐに分かってしまったのか腑に落ちる…デジャブですね…。
…ごめんなさい、アレばっかりで全く意味不明な文章だけど、著者は本書でネタバレなし、最低限の黒塗りで見事にその作品のエッセンスと見所を評している。
まるで後ろ手で縛られたかのような状態でここまで描けるとは、見事な分析力と文章力、羨ましい。


全作品を5つ星で評価するのは分かり易いし、楽しい。
ほとんどの作品の評価には賛成で、大好きな「五匹の子豚」やパーカー・パイン、クィン氏が高評価で嬉しいし、アリアドニ・オリヴァ夫人については私も読むたびに好きになるキャラクターなので、彼女の魅力についての言及には大きく首肯。
けれど、私が好きなあの作品が「見るべきところがない」と酷評されているのはしょぼん。
あの作品は、クリスティーの最初の結婚生活の破綻と次の結婚生活の対比と自分の成長を自己分析した作品なのかなと思っていたのだけれど。


ともかく、きっとクリスティーファンの集いでお互いに自分たちのトリビアやお気に入りのキャラやセリフを開陳するときっとこんな感じなんだろう。
つまり、時間を忘れるほど楽しい!
クリスティーのファンならぜひ手に取って欲しい本、そして読み終わったら、きっとファン同士で語り合いたくなる本だ。
誰か!相手をしてー!

アガサ・クリスティー完全攻略

アガサ・クリスティー完全攻略