「ウソつきとスパイ」 レベッカ・ステッド 著

ウソつきは誰だ。


最近、ジョージはツイてない。
お父さんが会社をクビになり、家族の思い出がつまった我が家から引っ越しをしなければならなくなった。
そのため看護師をしているお母さんが夜勤を増やしたことで、顔を合わせる時間も機会も減ってしまった。
そして小学校時代には親友だった男の子はクラスの「イケてる」連中と一緒に行動するようになり、ジョージはその連中からいじめを受け始めた…。


そんなジョージが引っ越し先で出会ったのは、不思議な男の子セイファーとその妹キャンディ。
彼らと知り合ったきっかけは、引っ越し先のマンションの掲示板に貼り出してあった

「今日は、スパイ・クラブのミーティング!」

という貼り紙。
ジョージの父がこれに「何時から?」といたずら書きしたことからジョージはスパイ・クラブの一員になってしまう。


兄妹の一家は、一風変わった人たちで、自分の名前は自分が好きなものをつける、学校には自分が行きたくなるまで行かない、などという特別なルールを設けている。
だからいつもセイファーは自宅で勉強し、時おり窓から野生化したオウムの巣を観察して過ごしている。
いつしかジョージはセイファーによってスパイに仕立て上げられ、放課後は彼らの家に行き、スパイの訓練を受けるようになる。
そして、そんなある日、マンションの住民の中に怪しい男を見つけたセイファーは、スパイ・クラブでその男の動向を調査し始めるのだが…。


中学1年生のジョージのイケてない毎日が、スパイ・クラブの活動とセイファーたち兄妹との交流によって徐々に彩りを取り戻していく。
会社勤めには向いていなさそうなお父さんや、つかれた中でも毎日ジョージを気遣うお母さん、セイファーの兄妹や両親、仕事が大嫌いな先生やいじめに悩むクラスメイトたち。
誰もがイケてない顔をしていながら、誰かがウソをついている。


ものがたりの最後の最後に、「ウソつき」は誰だったのか、そしてそれが誰のためのウソだったかが明らかになり、それと同時に、今までの出来事の意味が鮮やかに転換し飛躍する。
ジョージのものがたりがセイファーのものがたりになり、両親たちやキャンディ、クラスメイトたち、先生、みんなのものがたりが広がり、立ち上がる。
そこに至るまでの描き方がとても丁寧だったので、裏読みばかりしてしまう私もまったく気づかず、すべてのウソが分かった時、ジョージを取り巻く人たちのよくよく考え抜かれた優しさがしみてしみて、涙があふれてしまう。
誰かの寂しさに寄り添うっていうのはこういうことなんだよなあ。


人が人に支えられ助け合うということを子どもたちが学んでいく、という大筋は昨年読んだ「Wonder」にも似ている。
他人と関わるということは、互いに自分の何かを差し出し交換する行為だということ。
人に「弱さを見せろ」とか「自分の寂しさを晒せ」と要求するなら、自分もまた自分の弱みを見せ、寂しさを晒す覚悟が必要なんだ、ということ。
本書では、いくぶんか軽やかで愉快な日常を描きながら、人が人に出会い、関わることの意味と覚悟を描きだすというところは「Wonder」と同じだ。
まるで諱か真名の理りのように、自分の名前の由来をジョージに打ち明けたセイファーの勇気を見ていると、人間関係を計算してコントロールして感情を小出しにして生きることがとても薄っぺらいもののように思える。
2013年ガーディアン賞を受賞した本作品、2015年の読書の最後をこの作品で締めくくることができて幸せだった。

ウソつきとスパイ (Sunnyside Books)

ウソつきとスパイ (Sunnyside Books)