「督促OL 奮闘日記 ちょっとためになるお金の話」 榎本 まみ 著

前作に引き続き、とあるクレジット会社の回収部門に勤める女性のオシゴト本。今回は返済や多重債務に関する知識などもとりまぜた「借入と返済の手引書」にもなっている。


本書は、前作「督促OL 修行日記」に続き、とあるクレジット会社に勤めるうら若き女性が「督促」という非常にデリケートかつハードな仕事で日々人間の本音や弱音に触れながら奮闘するオシゴト本だ。
学校を出て初めての職場がクレジットの滞納者向けコールセンターという、新社会人としてはかなり厳しいスタートを切った著者。
ブログや本書を見る限り、今も同じ仕事場で頑張っている様子だ。


書いたものを拝見する限り、著者は感受性が豊かで共感力があり勉強熱心な方のよう。
そんな彼女だから、やがて疲弊して転職してしまうか、早々に督促という仕事を卒業して次なる仕事(家計コンサルタントとかキャッシングアドバイザーとか肩書き付けて…)に飛躍してしまうのではと見守っていたのだけれど(オカンか!)、本書ではより一層、督促という仕事を通じてオシゴトへの考察を深めている。

「借金男子の見抜き方、教えます」

と、オビにはどこかのドラマのキャッチコピーみたいな軽い文句があるのだが、中身はかなり真面目に借金との付き合い方について考えさせる内容になっている。

ブラックリストというリストはないが、各社への借入や返済情報は共有されている」
「一定期間延滞するとカードは強制解約になり、その後数年はその記録が残ってしまう」
「借金の解決方法は自己破産だけじゃない。それぞれ自分に合った債務整理方法がある」
「借金についての悩みは一人で抱え込まず、相談できる人や窓口に早めに相談したら解決が早い」

どれも当たり前のことばかりだけど、これが当たり前じゃない人がたくさんいるからこそ、著者の仕事は日々困難を極めている。

ちなみに借金男子の特徴として挙げられているのは①洋服の単価が高い②玄関に靴が散乱している③しつけられていないペットを飼っているなど。
あまりに思い当たる特徴に電車の中でふきだしそうになった。


CMでは、アイドルたちがお金を「お気軽に」借りましょうとお勧めする昨今。
前作から本書までの数年間にも、ますます借り入れが一般的に、いや、そういう言葉では伝わりにくいな…キャッシング、クレジット、ローンなどの借金が「カジュアル」で「恥ずかしくないもの」になりつつある。
人目を避けて質屋に行く…って、一世代前の小説などによく出てくる場面だが、そこにはどこか後ろ暗い気配があった。
何でもかんでも明るく軽くすればいいってもんじゃない、後ろ暗さって人の世に大切な要素だろう。
もちろん、著者の言うようにみんながお金を使わなきゃ経済が回らない、という理屈が分からないわけじゃない。
いやしかし、借金させて回さなきゃ成り立たない経済の構造ってものにこそ、そもそもの問題があると思うのだけど。


お金には人の生き方を規定してしまう怖さがある。
本来は「その人の生き方が、お金の有無や使い方を規定する」はずが、ときおり自分を含めて「お金の有無や多寡によって、その人の生き方が規定されてしまう」羽目になっていることがある。
おそらく人が雨露を凌ぐ場所に住み、ものを食べ、衣服を着て、他人とコミュニティを営まないと生きていけない以上、ほとんどの人は多かれ少なかれお金の支配力から逃れられない。
支配されるのではなく、自分でお金も生き方をコントロールすることができたら。
ちなみに著者はキャッシングやクレジットでお買い物をしているのだが、利息や残債務は一円単位で把握しているそうだ。
自分の生き方をコントロールするということは、おそらくそういうことを身につけることから始めなくてはならないのだろう。
お手軽な論調に似合わず、お金と自分の生き方について、さまざまなことを考えさせられた本だった。