「マンハッタン・ビーチ」 ジェニファー・イーガン著
第二次世界大戦の混乱の中にあるアメリカで女性潜水士を目指す主人公アナと、彼女の人生に影響を与えた2人の男の物語。
1人は母とアナ、障害のある妹を残して5年前失踪した父エディ。
そして父の雇い主で、その行方を知っているはずの男、ギャングのボスであるデクスター。
父の行方探しと、当時は前例のない女性潜水士を目指すアナの挑戦と成長という2つのテーマを主軸に、なぜ人は時に大切なものを見失ってしまうのかという問いが繰り返される。
著者は、当時のニューヨークの街や裏社会のディティールを、3人それぞれの視点で音が聞こえ匂いまでしそうなくらい丁寧に描き込み、読者を深く深く物語の世界に誘う。
それは、まるで潜水士がひとりで海底に降りていくような、忘れがたい、誰とも分かち難い読書体験だった。