「ワンダー WONDER」  R・J・バラシオ 著

「ところで、ぼくの名前はオーガスト。オギーと呼ばれることもある。外見については説明しない。きみがどう想像したって、きっとそれよりひどいから。」

オーガストは「スター・ウォーズ」が大好きな10歳の男の子。
彼は400万人にひとりの確率で起こる変異遺伝子の組み合わせによって顔の外観に異常が生じた状態で生まれた。
それは生まれてこのかた27回の形成手術を行い、それでも友人に「手術をしたら?」と真顔で言われるほどで、初対面で会う人、道ですれ違う人が彼の顔を見るたび息を飲む。
だけど両親と姉のヴィアは、彼のことを心から愛している!
なによりも重要なのは多分、ここ。


そんな彼が、突然新学期から学校に通うことになる。
これまで学校には通わず自宅で母親から勉強を学んでいたのだけれど、両親が話し合いの末に、彼は他の子どもたちに混じって生活することになったのだ。
ほとんど家族だけで過ごしていた毎日から、彼の顔のことを知らないたくさんの子どもたちに囲まれて過ごす学校生活…。
本書は、そんなオギーのWONDERに満ちた一年間の学校生活を描く。


私たちは人と対面するときに、まず顔からたくさんの情報を得る。
その人の目の動きや表情、口元の動きなど、それは言葉よりもたくさんの情報を対話相手に提供してくれる。
ところが、その目や口などの顔の部位がちょっと違うところにあって、それが予想もできない動きをしていたら?
誰でも一瞬パニックになってしまうんじゃないだろうか。


オギーのクラスメイトたちも、そんな彼に会って最初に感じたショックを上手に隠すことができない。
大人たちがオギーに対して親切に振舞うように仕向ける(それはとても自然なんだけれど)やり方もなんだか気にくわない。
あからさまにオギーをつまはじきにする者、態度は親切なのに決して心を許さない者、「ゾンビっ子」「ペスト菌」と名付けて陰で笑う者、無視する者、それぞれが思い思いの態度で彼に接する。


本書は、オギーと彼の姉ヴィア、オギーのクラスメイトたち、ヴィアの友人、彼氏を語り手に、オギーの存在が彼らにどのような経験をもたらすのかを多角的に描いている。
中でも、誰に促されることもなく最初に一人ぼっちのオギーのランチテーブルについたサマー、人に悪く言われることより気の合うオギーと一緒に過ごす心地よさを選んでクラスメイトたちと戦うジャックの行動は、以前読んだ乳幼児を対象にした実験で「人間の本性は善である」という結論が導き出されたというネット記事を思い出した。
彼らの勇気が、そしてどんなにつらい時も学校に通い続けたオギーの勇敢さが、思いがけない「WONDER=驚くべきこと、奇跡」をみんなにもたらすのだ。


本書に登場する子どもたちは、意地悪な子も含めてそれぞれが、世の理不尽や大人の事情による寂しさを抱えている。
せつなくて、みんなを交互に抱きしめたくなる。
だけど、オギーのママが言うように、私も「この地球上には、悪い人よりもいい人のほうが多いってこと」を信じてる。
人が他人の寂しさや不幸に共感し、癒そうと歩み寄る勇気があることを。
そしてパパとママはそれを信じているからこそ、オギーを社会(学校)に送り出すことを決めた。
それはオギーと家族にとって、大きな試練となったけれど。
だけど、その試練は本当は、受け入れる社会の側こそが克服すべきものなのだ。
より強く優しくなるために。


ワンダー Wonder

ワンダー Wonder