「ルーズヴェルト・ゲーム」 池井戸潤 著

追い詰められた企業と野球部の手に汗握る戦い、それは大差に追いつくルーズヴェルト・ゲーム。今、私たちが一番見たい逆転劇がここにある。


「野球」と呟いただけでじりじりとした夏の太陽の日差しや砂ぼこりの舞うグラウンド、そして屈託のない笑顔が浮かぶ。高校時代、グラウンドの選手たちを目で追い、声をからしてヒットを打ってと叫んだ。そして頭上に広がるのは入道雲の浮かぶ一面の青空。
 
一方、「日本の製造業」という言葉でネット検索をしてみれば、空洞化、リストラ、大打撃、海外脱出などのネガティブな単語か目に付く。
私の身近にも勤務先の工場が閉鎖になるため、単身赴任か家族全員で引越しするのか、悩む友人がいる。 まさに頭上に広がるのは重い曇天の空。
 
その「野球」と「日本の製造業」がともに憎たらしい敵と戦いを繰り広げるのが本書だ。
題名の「ルーズヴェルト・ゲーム」の元になったのは、野球好きのルーズヴェルト(フランクリンの方)大統領が、「1番面白いゲーム」と評したのが、大差から追いつく8対7の試合だった、というエピソードから。  

まさにこの題名から想起されるストーリー展開。
ルーズヴェルト・ゲームというだけあって、本書の八割がたまでは、主人公たちは野球でも、事業でもひたすら攻めて攻めて攻められる。
絵に描いたような悪役と、守勢一方の頼りない主人公たち。
でも、一生懸命努力する彼らに、読者は思わず、応援せずにはいられない。同じ野球でも、親がかりで部活動だけをしていたらよい高校生とちがって、生活を背負っている社会人たちは違う。
野球と業績が常に絡み合い影響し合い、敗北は、場合によっては野球だけでなく生活の糧を失うことに繋がるのだから。

本書は新聞小説だったという。
新聞でストーリーを追っていた人はさぞかし、毎朝やきもきさせられただろう。
しかし一方で、それこそがルーズヴェルト・ゲームの醍醐味。
逆転劇が始まれば、思いっきり感情移入して、応援して、すっきりできる。
曇りのち快晴。
今、日本人が求めているのは、こんな小説なのかもしれない。
 
ところで、野球は9人、サッカーは11人、ラグビーは15人…相手方を入れればこれは倍になる。
メンバーが多い団体競技は、メンバーを書き分けることが小説やマンガで描く上での難しさだろう。
本書では、9人のメンバーのうち、読み終えるまでに名前や姿を思い浮かべられるのは5〜6人しか(監督、マネージャー含む)おらず、そのメンバー自体の印象も陰影が乏しいのは、残念な要素。
しかし、青島製作所側の登場人物に、読み進めるうちに第一印象とがらりとイメージの変わる人物がいて、これがなかなか素敵。
人間というのは簡単に「分かる」ものではないし、そうだからこそ魅力的なんだと改めて感じた。

震災から1年が過ぎた。
私たちのルーズヴェルト・ゲーム、大逆転はいつから始まるのだろうか?

ルーズヴェルト・ゲーム

ルーズヴェルト・ゲーム