「スリー・カップス・オブ・ティー」 グレッグ・モーテンソン デイヴィッド・オリバー・レーリン著

何事においても最もふさわしい時期があり この世の中のすべてのことには「時」がある。人生最大の失敗の直後に出会った人生最大の目標とその達成までの紆余曲折を描く。


たまたま、出会いについて、そして人が人と共に生きることについて、悩み、考えていた時に、ふと書店で本書を手に取った。
その意味では、まさしく私もふさわしい時期にふさわしい本を選んだのだろう。
 
この本はアメリカ人の登山家グレッグ・モーテンソンが、世界で2番目に高い山「K2」に挑み、頂上を目前にその挑戦に敗れ、疲れきって山を下ってきた際に、パキスタンのコルフェ村という小さな村に迷い込んだところから幕を開ける。
村は貧しく、100人の子供達が通う学校は屋根がなく、子供達は霜の下りた地面に座って授業を受けている。
彼は助けてもらったお礼に、村長ハジ・アリに「僕がこの村に学校を建てます」と約束をする…。
 
ここから彼の苦闘が始まる。
アメリカに戻り、資金集めに奔走。
そのために仕事を、住まいを、恋を失うが、彼は諦めない。
やがて篤志家の資金援助を得て、パキスタンに戻り、今度は異国の地で様々な文化的ギャップや慣習、宗教的対立に悩まされつつ、コルフェ村に念願の女子教育のための学校を立てる。

この学校を建てる直前、隣村の村長から妨害が入る。
学校を建てるつもりなら、村で最もよく肥えたヒツジ12頭をよこせと言うのだ。
ハジ・アリはあっさりヒツジを渡す。
不満げな村人に彼はこう話す。
「あのヒツジたちが殺されて食べられてしまっても、この学校というものは残り続ける。今日、隣村は食べ物を手に入れたかもしれない。だが我々の子どもたちは、いつまでも教育を受けられるのだ」
そして、村長はグレッグにコーランを広げ、さらにこう言う。
「このコーランがどんなに美しいかわかるかね?しかし私には読めない。文字が読めないのだよ。人生でこれほど悲しいことはない。村の子どもたちがこのような思いをせずに済むなら、どんな犠牲も払う」

これで彼は村長との、そして自分自身との約束を果たしたわけだが、しかし話はこれでは終わらない。
屋根もないところで地面に棒で字を書いて勉強をしているのはコルフェ村の子供だけではないのだ。
やればやるほど課題が現れる。
安全な水の確保、薬品の手配、成人女性の地位向上のための職業訓練
そして国家・民族間紛争はますます激化。
とうとう9.11が起こってしまう。

ちょうど、事件直後にグレッグは身の危険を感じつつ、パキスタンの地で開校セレモニーに参加していた。
その式典で、あるイスラムシーア派の指導者が、アメリカの嘆き苦しむ人々に謝罪した上でこのような挨拶を行う。

アメリカにお願いしたい。ぜひ我々の心を見て欲しい」
「我々のほとんどはテロリストではなく、善良で素朴な人間なのです。」

いつでも戦争で犠牲になるのはそんな人々で、報復の繰り返しを止めるためには、まずは学ぶこと、互いを理解し合うこと、声に出し、主張することが必要なのだ。

やがて彼はパキスタンだけでなく、アフガニスタンにも学校建設の運動を拡げていく…。

彼の活動はすでに10年以上に及び、コルフェ村の第一期生の女の子、ジャハンは学び続けることを決意し、こう宣言する。
「私、スーパーレディになりたいんです。」


…現在、グレッグはアメリカ本国でNGO団体の運営上の問題で訴訟に巻き込まれている様子。
これだけの大がかりなプロジェクト。
おまけに持ち上げては引き落とす、かの国の国民性。
大変だろう、でも少しずつでも暗さを増すこの世界に灯りを灯すために、続けて欲しいと思う。


スリー・カップス・オブ・ティー (Sanctuary books)

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