「解錠師 」スティーヴ・ハミルトン著

主人公は17歳。彼が人生の選択肢でいつもいつも危うい方を選ぼうとするたび、違うよ!そっちは危険だよ!と叫びたくなる。だけど、分かっている。そもそもそんな道を選択することが、そしてそれを「後悔していない」と言い切ってしまうことこそが若さなんだ。

主人公は冒頭、ある場所から読者に語りかけてくる。
当然ながら読者はこんな疑問を抱く。
なぜ、彼はこのような境遇に至ったのか?

主人公はある日、1つの古い錠を与えられて以来、錠をあけることに魔法にかけられたように魅せられる。
なぜ、彼は錠をあけることにこれほど執着するのか?

主人公の回想はあちこち飛んでいて、時に混乱してしまう。
なぜ、この小説の構成は、過去と現在がこのような入り組んだ、読みづらい構成になっているのか?

いくつものなぜ?が用意され、手招きする。
こうして疑問の答えを探しながら、読者は次々にページをめくる手が止まらない羽目になる。

これらのなぜ?に対する答えはなかなか明らかにならない。そして、もどかしいほどに主人公は危うい道、危うい方向に向かって走り続ける。
しかし後半を過ぎて、これらのなぜ?が、まさに過去と現在の記述が出会う場所で、哀しい形で解ける。そのきっかけとなる出来事はとてもやるせなく、せつないものだった…。

錠をあける場面のドキドキするような描写と不気味な裏世界の住人たち。
また主人公の心を繊細に表現する描写は本当に素晴らしいもので、各所で大きく取り上げられ、高い評価を得ているのは当然だと思う。

主人公の独白に引き込まれながら、一気読みしてしまった本書だが、気になるところもなかったわけではない。

1つはあまりにもたくさんの登場人物が死んでいったこと。
それも簡単に。
そしてもう1つは、とても複雑な事件や感情を主人公が言葉ではなく、別の手段で伝えようとするのだけれど、それが十分に人に理解してもらえるのか、それは私の想像を超えていて、それが可能と信じることが困難だったこと。
これはある意味、この作品の肝の部分でもあるので、これが受け入れられるかどうかはこの作品に対する評価を分けるだろう。
そしてなによりも、主人公がなぜ人生の大事な選択の場面で、明らかに間違った道を性急に選択してしまうのか、今一つ理解し難かったこと。
誰かに言えなかったのか、違う返事は出来なかったのか。
若さゆえと言ってしまえばそれまでだけど。

あとがきによると、本作品は「ヤングアダルト世代に読ませたい一般書に与えられるアレックス賞を2010年に受賞した」とある。
純粋で一途な主人公の魅力は、性急さや浅慮も含めて、若者にこそ支持され、理解されるのかも知れない。


解錠師〔ハヤカワ・ミステリ1854〕 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

解錠師〔ハヤカワ・ミステリ1854〕 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)