終わらない妊娠と終わらないもめごとはない

もめごとはいつか終わる。
それがどういった終わり方であれ、終わる。
よく私は同僚に言うのだが、「終わらない妊娠と終わらないもめごとはない」のである。


ただし終わり方はいろいろである。
両者が気持ちよく、互いに譲歩しあって、あたかも爽やかな高原の香りがしそうな素敵な結末で終わるケースもあるが、明らかに正しいと思われる当事者が馬鹿を見るような、中立な立場として参加した私たちですら、思わず怒り狂ってしまいそうな、あたかもどぶ川の香りがしそうな悲惨な結末で終わるケースもある。
そんな時、そのコテンパンに負かされて、悔しい思いをしている当事者から
「くやしい。この気持ちをどうしたらいいんでしょう?どうやってこれから生きて行ったらいいんでしょう?」
と聞かれて、私はこう答えることがある。
「幸せになって下さい」


このような悲惨な結末になってしまうもめごとの相手が望んでいることは、相手の不幸である。
この交渉の場で勝利したことで、当然自分は幸せなのだろうが、ついでに相手が不幸になればなお良いと考える当事者もいる。
だから、「幸せになるのが、一番の仕返しです」と答える。


不幸にして自分の望んだとおりの解決を得られず、後日
「思い出すたびに悔しくて悔しくて・・・。毎日つらい。どうしたらいいのでしょう?」と言われた時もこう答える。
「あなたに悔しい思いをさせるのが、相手の喜びです。相手を喜ばせないように幸せになって下さい」


正義の女神は忙しいのか、小さな小さな人間の営みやもめごとを見逃してしまうことがある。
もしかしたら深い洞察により、ここは必ずしも正義を通す必要はないと考えているのかも知れない。
ううん、もしかしたら神様なんていないのかも知れない。
だけど、私たちは生きていかなければならない。
どんなに悔しくても、息をして、ご飯を食べて、歩かなければならない。
だから、今日は負けてしまっても、いつか「幸せになる」と決心して下さい。