「アックスマンのジャズ」 レイ・セレスティン 著

「ジャズを聴いていない者を殺す」禁酒法の発行間近の1919年4月。 暴力や人種間の争いが蔓延するニューオリンズの街に、斧を持った殺人鬼アックスマンが現れ、「ジャズを聴いていない者を殺す」という予告を新聞社に送りつけ、住民たちを恐怖に陥れる。…

映画「スリービルボード」

ミズーリ州の小さな町で、一人の娘がレイプされ、火をつけられて殺された。 その母親ミルドレッドは事件の捜査が行き詰まり放置されていることに怒り、町外れに立つ大きな3つの看板に警察署長に対する抗議を真っ赤な一面広告として貼り出した。 家族や地域…

「屋根裏の仏さま」 ジュリー・オオツカ 著

世界はたくさんのたくさんの異なる「わたしたち」で出来ている。どれもかけがえのない大切な「わたしたち」で。写真だけを頼りに新世界アメリカに旅立った日本人の「写真花嫁」たち。 彼女たちを待っていたのは、写真とは似ても似つかぬ男性や、約束された住…

「許されざる者」 レイフ・GW・ペーション 著

スウェーデン・ミステリ界の重鎮の代表作で、CWA賞、ガラスの鍵賞など五冠に輝いたという惹句もむべなるかな。本書の主人公は、物語の冒頭で突然脳梗塞で倒れた元国家警察庁長官ラーシュ・マッティン・ヨハンソン。 命拾いをしてゆっくりリハビリに励むはず…

「アルテミス」 アンディ・ウィアー 著

「火星の人」のテイストそのままに、次の舞台は月。 挑戦するなあ、著者。 重力が地球の1/6という環境で、まさに縦横無尽に飛び回る(文字通り)大活躍で月面都市アルテミスの危機を救うヒロインはジャズ・バシャラ。 優秀な頭脳を持ちながらも男を見る目の…

「晩夏の墜落」ノア・ホーリー 著

晩夏のある日、年齢も境遇もばらばらな11人の乗客を乗せたプライベートジェットが、海に墜落した。 その事故で奇跡の生還を果たした主人公と4歳の少年を巡り、事故の真相を探るため、好奇心を満たすため、あるいは野心を実現させるため、人々はそれぞれ思…

「ナショナル・ストーリー・プロジェクト Ⅰ・Ⅱ」 ポール・オースター編

どの人にも、語るべき物語がある。ラジオ番組で、ポール・オースターが全米のリスナーに彼の番組で読む実体験に基づいた短い物語を募集。 すると彼の元には4000を越すストーリーが寄せられた。 その中から選ばれた179の作品がこの文庫版のⅠ、Ⅱの2冊に収めら…

「パリのすてきなおじさん」 金井 真紀・広岡 裕児 著

おじさん好きを自称する金井さんとパリ在住の案内人広岡さんのパリ、おじさんを訪ねる旅。 一見軽い調子に見えるが、実際にはテロや移民問題で揺れるフランス、パリの現在が垣間見える貴重なレポートで、一人一人のおじさんとの触れ合いに「多様性」という言…

「体の贈り物」 レベッカ・ブラウン 著

私たちは、この世で生きているつかの間、他者と視線を交わし、言葉を交わし、触れ合って、そうやって最期まで互いの体を通じて「贈り物」を交換することができるのだ。 先日発表されたスマホの新型機は顔で認証する機能が付いているとか。 ただでさえ一日中…

「浪費図鑑 ー悪友たちのないしょ話ー」 劇団雌猫

彼女たちは、それを浪費ではなく「愛」と呼ぶ。「タガが外れる」という言葉がある。 何かの拍子にリミッターが解除され、欲望や感情が暴走し理性が吹っ飛んでしまうこと。 本書は、この「タガの外れ」具合を、ある対象につぎ込んだ「お金」の多寡によって計…

「誰が音楽をタダにした?」 スティーヴン・ウィット 著

音楽はかつて、宝石のように希少価値のある貴重なものだった。最近、音楽は「聴く」というよりもなんだか「消費する」と言ったほうがしっくりくる。 私の子どもの頃は「好きな音楽を聴く」ためには、その歌手が出演するテレビやラジオ番組をチェックし、家族…

「市立ノアの方舟」 佐藤 青南 著

さまざまな制約の中で環境に適応しながら生きようとする動物たちのたくましさに、逆に人間たちが知恵やエネルギーを与えてもらっている。生きるものは皆、健気だなあとしみじみ思う。このところ、興味をひかれるままにインターネットやAIに関する本や記事ば…

「神は背番号に宿る」 佐々木 健一 著

数字には魔法があり、それによって喚起されるドラマがある。 数字には魔法があり、それによって喚起されるドラマがある。 たとえば「0(ゼロ)」の起源やその哲学的存在感などを見れば、まさに魔法!という感じがするし、古今東西ひとが好むさまざまな占いの…

「アーサー・ペッパーの八つの不思議をめぐる旅」 フィードラ・パトリック 著

人生に発見を、偶然を、ハプニングを、新しい出会いを!そしてそれらを受け容れ、違う世界に踏み出す勇気ある一歩を。本書の主人公は、40年以上添い遂げた伴侶のミリアムを亡くし、毎日のルーティンワークに埋没することでなんとか生きている69歳のアーサー…

「四人の交差点」 トンミ・キンヌネン 著

この家には、伝えなかった言葉があり、使われなかった拳銃があり、燃やされた手紙があり、家族にさえ言えない秘密がある。これはフィンランド北東部の小さな村の増築が繰り返された不恰好な家に住む、ある家族の物語。 この家には、伝えなかった言葉があり、…

「死してなお踊れ 一遍上人伝」 栗原 康 著

いいよ、いいよ、すくわれちゃいなよ、いますぐに。なんだかここ数日慌ただしい危機感にあふれたニュースがそこら中で氾濫している。 のんびりとした日々の雑感や日常のユーモア、ドラマの感想などが大部分だった私のTwitterのタイムラインにも物騒なツイー…

「コードネーム・ヴェリティ」 エリザベス・ウェイン 著

第二次世界大戦の最中、イギリスから一機の飛行機がフランスに向けて飛び立つ。月明かりの下、乗っているのはマディとクイーニーという2人の少女。それは2人にとって運命の飛行となる。第二次世界大戦の最中、イギリスから一機の飛行機がフランスに向けて飛…

「死にゆく患者(ひと)と、どう話すか」 明智 龍男 監修 國頭 英夫 著

「そういう文化を創ってしまって、みんなで死を考えることが当たり前というような社会にすれば、それは暗くも何ともなくなるのだと思います。」本書は、日本赤十字看護大学一年生後期の基礎ゼミ「コミュニケーション論」において、進行がんの治療を専門とす…

「ねないこは わたし」 せなけいこ 著

「ねないこ だれだ」。ねないこはわたしだったの。子どもたちが保育園に通っていた頃、寝る前に必ず一冊は絵本を読む約束をした。 そしてその中には本書の著者、せなけいこさんの「ねないこ だれだ」や「いやだ いやだ」、「あーんあん」、「めがねうさぎ」…

「静かな炎天」 若竹 七海 著

20代のフリーターだった葉村晶も40代となり、ついに本書では四十肩に。読者も一緒に年をとる人気シリーズ。できれば最後まで伴走したいと思っているのだが。 本書の主人公、葉村晶(あきら)は、1996年から現在まで、著者の短編、長編作品で活躍しているシリ…

「これからお祈りにいきます」 津村 記久子 著

この世は人の願いと祈りが複雑に絡み合っている。人が自分の体の一部を犠牲にしてでも叶えたい願いとはなんなのだろう。中編2作が収録されている作品集。「サイガサマのウィッカーマン」 「ウィッカーマン」とは古代ガリアで信仰されていたドルイド教におけ…

「貧乏人の経済学」 A・V・バナジー 、 E・デュフロ 著

最近、仕事の関係でたびたび「貧乏人は努力が足らない、自己管理能力が低い」というもっともらしい言葉を述べる人と出会うので、検証と反論のために読んだ。 本書は「経済学」という題名ではあるが、単純な分析や学術的な論考ではなくて、食糧や医療、教育、…

「糸切り 紅雲町珈琲屋こよみ」 吉永 南央 著

「紅雲町珈琲屋こよみ」シリーズ、第4弾。今回は、個人経営の電器店や手芸店など大手スーパーやネット通販に押され寂れていく一方の小さな商店街を舞台に人が変わらないでいることの難しさと、あえて変わろうとする勇気を描いている。「紅雲町珈琲屋こよみ」…

「生か、死か」 マイケル・ロボサム 著

10年間、現金強奪事件で懲役刑に服し、それも明日には釈放となる予定だったオーディ。 ところが、彼は出所予定の前日、誰にも理由を告げず脱獄…彼はなぜあと1日が待てなかったのか。 10年前、700万ドルの現金強奪事件が発生し、犯人4人のうち2人は射殺、…

「ブルックリン」 コルム・トービン著

なぜ人は一つの道しか選ぶことができないんだろう。同じように可能性と愛情を感じる選択肢があったとして、それを両方選ぶことはなぜできないんだろう。 なぜ人は一つの道しか選ぶことができないんだろう。 主人公アイリーシュの生真面目さと人生の一回性に…

「脳が壊れた」 鈴木 大介 著

脳梗塞で倒れ、一命はとりとめたもののさまざまな機能障害を発症、その後も後遺症に悩まされつつ厳しいリハビリに耐え、現在もライターとして活躍している筆者が描く病前病中病後のリアル。 脳卒中(脳梗塞や脳出血などを含めて言う)とは、がん、心臓病に続…

「ゴールドフィンチ」1〜4 ドナ・タート 著

美術館でテロ事件に遭遇し最愛の母を亡くした少年テオ。謎の老人の指示で彼はある名画をそこから持ち去ってしまう。彼とその名画を巡る数奇な運命…。ニューヨークに住む13才の少年テオは、雨を避けるために入った美術館で、爆弾テロに遭遇し最愛の母を喪う。…

「窓際のスパイ」 ミック・ヘロン 著

失敗や挫折によって役立たずの烙印を押され閑職に追いやられたスパイたちが、人生の大逆転を目指して新たなミッションに挑む!窓際族という言葉が昭和5〜60年代に流行した。 出世コースから外れたサラリーマンがメイン業務から遠い窓際の席に追いやられて毎…

「総選挙ホテル」 桂 望実 著

身売り直前のホテルに就任した新社長の立て直し策。それは、従業員の従業員による総選挙!?先日新聞を読んでいたら、ある人が仕事を続ける秘訣として自分の仕事人生を振り返り「ぶれずに自分が『やりたい仕事』をすることだ」と語るインタビュー記事があっ…

「霧に橋を架ける」 キジ・ジョンスン 著

一度架け始めたら最後まで続けるしかない。橋を架けるということは生きることと似ている。著者初の邦訳短編集、収録された11の作品はどれも独特の味のあるものなのだが、簡単にいくつか作品の感想などを。「26モンキーズ、そして時の裂け目」 3年前のある日…